本研究は,多数のデータ走査を要するビッグデータ解析を,FPGAを用いて構成するアクセラレータを導入することで,高速かつ省エネルギーに実現する計算機システムの開発と性能の実証を行った.ネットワーク技術とインターネットサービスの充実により大量のデータが蓄積されるようになった現代において,集積されたデータから知見を見いだし,社会や組織の発展に活かす試みが広く取り組まれている.ここで重要となることは,大量のデータ処理を現実的な計算時間と可能な限り低いコストで実現する仕組みである. 本研究では,ビッグデータ解析において計算時間を増大させるボトルネックは,(1) 大量のデータを走査して単純な演算を繰り返し適用する手続きであること,(2) データが格納されるストレージと実際に計算を行う主記憶の間の転送経路の速度にあることの2点に着目した.この問題に対し,データ転送と計算を密に結合する専用ハードウェアの導入が効果的であると考え,ストレージが接続できるFPGAボードで通信網を構成するPCクラスタを構成し,いくつかのアプリケーション用にハードウェアを実装して性能の実証を行った. 最終年度である今年度は,計算生物学で利用される相同性検索アプリケーションBLASTと,大規模データベースの結合演算を対象にハードウェアの実装と評価を行った.前者では,計算処理の前処理部分をFPGA上の専用ハードウェアで行い,計算結果のまとめと集約をPCで行うことで,計算時間を1/3程度に短縮できることを確認した.また後者は,主記憶を介さずにFPGAボード間でデータを直接通信して各ノードで並列に結合ことで,約5倍の計算性能が得られることを確認した.これらは同一の性能を得るために要する計算機の数を削減できるため,省エネルギー効果も得られるものである. これらの研究成果は,国際会議論文として発表し,海外論文誌に採録された.
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