研究課題
平成27年度では注意が運動主体感に与える影響について,行動実験および脳波を用いた実験で検討してきた.行動実験では,計画通りに,注意の処理資源,覚醒度,および処理レベルを操作し,運動主体感の変化をそれぞれ調べた.注意の処理資源において,処理負荷が大きい場合,自分の行動と外界の変化を比較する感覚レベルの処理が妨害され,運動主体感の判断が,行動の結果より直感的に推論するといった高次なプロセスに依存する現象を発見した.この研究成果は,Frontiers in Psychology誌に学術論文として掲載された.注意の覚醒度に関して,操作の対象の色(赤 vs. 黒)を用いて覚醒度を操作し,操作に対する主体感を調べた.その結果,顕在的な主体感は覚醒度に影響されなかったものの,Intentional Binding Effectという運動主体感の潜在的な側面を反映する効果が促進されたことが明らかになった.この研究成果は,Consciousness and Cognition誌に学術論文として掲載された.注意の処理レベルに関して,操作に目標が提示されると,運動主体感が大きく影響され,また目標達成のフィードバックに基づく運動主体感の推論は,場合によって感覚レベルの処理よりも優位であることが,実験の結果から明らかになった.これらの成果は,PloS ONEおよびConsciousness and Cognition誌に学術論文として掲載された.これらの行動実験の成果は,運動主体感の生起のメカニズムの解明に大きく貢献したと考えられる.また,平成27年度では,脳波を用いて運動主体感の神経基盤と注意の変化を解明してきた.運動主体感が伴う行動の直前の神経活動が,運動主体感に対する予期の情報が含まれ,運動準備電位という神経活動の指標に反映されており,後に提示される刺激に対する注意にも影響を及ぼすことが明らかになった.この成果は国際学会での発表を行った.現在では引き続きデータを収集し,解析している最中である.
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度では,当初計画した行動実験をすべて実行し,その成果として,第1著者の英語論文を4本発表し,第2著者のレビュー英語論文を1本発表した.また,国内・国際の学会においても研究成果を複数回発表し,社会に向けて発信してきた.さらに,平成27年度では,脳波を用いて,運動主体感が生起する際の注意の変化および「予期」といった高次な認知処理の神経基盤を検討し,初歩的な成果を挙げ,運動主体感のメカニズムの解明に重要な知見を提供できた.以上の取り組みと成果によって,本研究は当初の計画以上に進展していることが言える.
今後の研究では,引き続き脳波を用いて運動主体感の神経基盤を解明する予定.脳波は神経活動に対する時間解像度が優れているため,脳波信号を用いて,運動主体感の生起およびその過程における注意の変化を解明する.さらに,同時並行として,2年目に計画していたtDCSとfMRIの実験を遂行し,運動主体感が生起する際に,注意にかかわる脳領域の活動変化を調べ,注意が運動主体感に影響を及ぼす神経基盤を解明する.また,H28年度では,海外の研究機関(Institute of Cognitive Neuroscience, University College London)と連携し,脳波とfMRIを用いて運動主体感の生起の神経基盤の解明に関する共同研究を行う予定である.
H27年度の予算計画で購入予定であった経頭蓋直流刺激(tDCS)装置は,直接経費が不足のため,購入を断念した.その費用を行動実験の装置,謝金,および解析ソフトに使用した.その結果,残額が残り,次年度で使用することにした.
次年度では神経実験を複数予定しており,機材の使用料,消耗品,実験参加者に対する謝金など,多額の研究費用が見積もられるため,今年度で繰り越した金額で充填する予定である.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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http://www.robot.t.u-tokyo.ac.jp/~wen/topic_jp.html