研究課題/領域番号 |
15K16013
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
的場 隆一 富山高等専門学校, 電子情報工学科, 准教授 (30592323)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知バイアス / 第一言語獲得 / 繰り返し学習 |
研究実績の概要 |
第一言語学習者がおかれている環境は発話状況から意味を推測するには膨大な可能性がある.また,学習者は文法書や辞書などが存在しない中で言語を獲得していく.ではいかにしてヒトは第一言語を獲得するのであろうか.このパラダイムに対し認知バイアスという物事の認知の偏り(考え方の偏り)が発話と発話状況における意味のマッピングを可能にしているという説が存在する.本研究では第一言語獲得における認知バイアスの効果についてエージェントシミュレーションを通してアプローチしている.認知バイアスの効果は語彙獲得の分野ではその効果が検証されている.本研究では語彙獲得だけではなく構文獲得においても認知バイアスが影響しているのではないかという仮説をたて,その効果を検証している.
これまでに親エージェントが発話し,幼児エージェントがそれを学習しながら獲得し,幼児エージェントが次世代の親エージェントとなるという垂直伝達を模した繰り返し学習モデルを構築した.さらにこのモデルに共同注視の枠組みを導入した意味選択型繰り返し学習モデルを構築し,その検証を行った.さらに幼児エージェントに過拡張的用法の能力を組み込み,その効果が認知バイアスに与える影響についても調査を行った.
現在,計算機上では認知バイアスの有効性を示すことができた.このシミュレーションの結果に妥当性を与えるために現実世界で同様な有効性を示すことを目的として被験者をつかった実世界での実験を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに発話状況における意味の多重性を考慮した意味選択型繰り返し学習モデルを提案し,これを用いて認知バイアスの構文獲得における有効性を示してきた.また,認知バイアスの有効性を定量的に評価するために言語間距離を提案し,親子間の距離が認知バイアスの有無により変化するかということについて調査を行った.その中で,認知バイアスが有効に作用することは示せたものの,同音異義語が多発する問題に直面した.これを解決するために過拡張的用法を導入した.
これらの実験を行う中で,計算機シミュレーションでは認知バイアスが構文獲得においてその有効に作用することは示せた.しかしながら,その有効性は弱く,また実世界の現象と乖離しているのではないかとの指摘を学会で受けた.そこで,実際の被験者を導入して実世界における繰り返し学習実験を現在行っている.
現在のところ,認知バイアスを入れる準備段階として,電子楽器を用いて繰り返し学習により音色を伝達させる実験を行なった.初期セットとして8種類の音色を準備し,これを被験者Aに複数回聞かせ,被験者Aはこれらを覚えて被験者Bに伝達する.この伝達を10人で行なった.その結果,特徴的なフレーズを1つの塊として伝達することや,伝達されていくにつれ模倣ミスが減少した.これらの結果は,音色が繰り返し学習により汎化され伝達されやすいフレーズと変化していったことを示唆している.この実験設定において音に合わせてオブジェクトの動作を付加することで認知バイアスの効果を確認しようと試みている.これによりこれまでおこなってきた計算機シミュレーションにおける結果を支持するような結果が得られれば,さらに研究結果に妥当性を与えることができるものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ,意味選択型繰り返し学習モデルを構築し,これに認知バイアスを組み込むことを行なった.また,この有効性を定量的に評価するために,ハミング距離とレーベンシュタイン距離を利用した言語間距離の提案を行い,これを親子間の言語伝達度の尺度として適用した.さらに,同音異義語の多発に伴い過拡張的用法を学習者である幼児エージェントの能力として導入し,その効果を検証した.過拡張的用法は実世界のおいて言語爆発期前の幼児に見られる現象で,一つの発話に対し複数の意味をマッピングさせる現象である.
これらを踏まえ,現在は現実世界での実験を行なっている.準備段階としてバイアスを導入しない繰り返し学習モデルの実現を行なった.この実験では未知の言語として音色を導入し,被験者がこれの全体を覚えるのではなく部分的に切り取ってその特徴を組み合わせて覚えるか否かについて調査した.結果として被験者が次に伝達していくにつれ,覚えやすい部分を切り取りそれらを組み合わせた音色を伝達していくことがわかった.また,伝達されるにつれ伝達されやすい音色に変化していくため,伝達ミスが減少するという現象を確認することができた.これらの特徴は計算機上でおこなった繰り返し学習モデルによる実験結果と一致する.
今後の方針として,上述した実験モデルに積み木やカラーバリエーション豊富な粘土などを音色に合わせて動かすことで音色と物体の動きの伝達を試みる.この時に,伝達されるにつれ音色の部分的な要素が物体の色,形,動きなどと対応づけされるならば,相互排他性バイアスの有無について言及することが可能であると推測している.この実験結果を踏まえ,現在の意味選択型繰り返し学習モデルのバイアスの組み込み方について再度検討することを考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験設定を大幅に変更したことにより,学会における研究成果発表の回数が減少したため.次年度使用額として繰り越された分は論文投稿費,学会参加費,旅費,英語論文校正費にあてることを計画している.
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