研究課題/領域番号 |
15K16016
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
横山 修 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 主任研究員 (60455409)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 空間性注意 / 眼球運動 / 補足眼野 / 前頭眼野 / 大脳基底核 / 霊長類 / 単一ニューロン活動 / 局所場電位 |
研究実績の概要 |
空間性注意は、環境に存在するさまざまな情報から文脈に応じて適切なものを選択的に検出・処理する重要な認知機能である。時間的(情報自体の出現する以前より予期的に注意を向ける)および空間的(注意を向ける空間範囲の広さを調節する)側面に関して能動的(トップダウン)に制御することができる。平成28年度は、こうした時間的・空間的な注意制御を要する行動課題を遂行中のサル前頭葉(補足眼野および前頭眼野)および大脳基底核からの神経活動(単一ニューロン活動および局所場電位)記録を継続し、それぞれの脳領域における情報コーディングおよび行われている情報処理を明らかにするために多面的な解析を進めた。単一ニューロン活動の結果から、これらの脳領域は空間性注意の制御に関与する同一のネットワークに属し、連関して機能している一方でそれぞれが異なった寄与をしていること、半側視野へ広く注意を向けることには補足眼野が主要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、局所場電位の結果から、複数の周波数帯域(高ガンマ帯域、ベータ帯域)の活動が注意制御に関連して特徴的な変化を示すことが明らかとなった。こうした活動は、半側視野へ広く注意を向けるときと、局所的な位置に注意を向けるときとで、異なる変化を示した。前頭葉―大脳基底核ネットワークによる空間性注意の制御に関わる神経生理学的メカニズムを異なる複数のレイヤー(単一ニューロンレベル、局所場電位レベル)で特徴付けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、計画どおりに神経生理学的研究を進めた。半側視野へのトップダウン注意を要する課題遂行中のサルの前頭葉(補足眼野および前頭眼野)と大脳基底核から神経活動(単一ニューロン活動および局所場電位)を記録した。多面的な解析を行い、下記のとおり、一連の興味深い結果が得られているので、順調に進展していると考えている。(1)各脳領域の単一ニューロン活動解析:ぞれぞれの脳領域において、半側視野および局所位置への注意を表現する単一ニューロンが観察された。(2)単一ニューロン活動の脳領域間での比較:半側視野への注意表現は、補足眼野において、前頭眼野や大脳基底核よりも強く見られた。また、大脳基底核ニューロンによる半側視野への注意表現は、補足眼野と比較して短い時間に限られていた。(3)局所場電位の時間周波数解析:補足眼野と前頭眼野の局所場電位の高ガンマ帯域(80-120ヘルツ)のパワーは、局所位置への注意時に増大し、その増大の程度は注意が神経活動の記録脳部位と反対側の視野に向けられているときに大きかった。一方、ベータ帯域(10-30ヘルツ)のパワーは局所位置への注意時に減少することもわかった。この減少の程度は、注意が神経活動の記録脳部位と反対側の視野に向けられているときに大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、前頭葉(補足眼野と前頭眼野)と大脳基底核それぞれの脳領域からの神経活動記録を完了する。得られた神経活動データの解析をさらに発展させ、異なるレイヤー(単一ニューロン活動―局所場電位)間の関係性を明らかにする。さらに、薬理学的な手法を用いて特定の脳領域の活動を抑制し、個体の行動(課題におけるパフォーマンス)および他の脳領域の神経活動への影響を調べる。具体的には、補足眼野の半側視野への注意の制御における寄与を検証するために、補足眼野にムシモル(GABA受容体作動薬)を注入することによって神経活動を抑制し、半側視野へのトップダウン注意を要する課題の正答率が低下するかどうかを調べる。また、その際に前頭眼野または大脳基底核から神経活動を記録し、半側視野への注意表現が失われているかまたは維持されているかを調べることによって、補足眼野が前頭眼野や大脳基底核を介して半側視野への空間性注意の制御に寄与しているという仮説を検証する。さらに、補足眼野の活動を抑制したときの前頭眼野と大脳基底核の間の機能的結合(コヒーレンス)を調べることによって、この神経伝達経路の役割を明らかにする。一方で、前頭眼野にムシモルを注入し神経活動を抑制した場合の、課題パフォーマンスおよび大脳基底核の神経活動、補足眼野と大脳基底核の機能的結合の変化を調べる。このように補足眼野―前頭眼野―大脳基底核の三領域から成るネットワークに薬理的に介入し、行動・神経回路・ニューロンという異なるレイヤーにおける変化を観察することによって、前頭葉―大脳基底核ネットワークによる空間性注意の制御メカニズムについて詳細な理解を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降の実験遂行のための実験器具・消耗品等に加えて、興味深い成果が得られているため、学会参加(複数回)や論文投稿・掲載にかかる費用を勘案し、次年度に持ち越した。近年、論文誌によっては高額な掲載料がかかる場合がある。
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次年度使用額の使用計画 |
薬理学的実験のための試薬など、実験に関わる消耗品や器具の購入に使用する。また、持続可能なデータ保存および解析のためデータストレージを購入する。多チャンネル(24チャンネル)で神経活動を記録しているため、実験を重ねるに伴って保管すべきデータ量は膨大になる。研究成果の発表のため、論文の投稿・掲載に係る費用、および学会参加のための旅費に使用する。
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