本研究は、空間性注意の位置や広がりの制御における前頭葉-大脳基底核の神経メカニズムを明らかにすることを目的としてきた。平成27年から平成29年まで、空間性注意の動的な制御を必要とする行動課題を遂行中のニホンザルの前頭葉に位置する前頭眼野および補足眼野、大脳基底核の尾状核のそれぞれから単一神経細胞活動を記録し、各脳領域の単一神経細胞が動的に変化する注意野(注意の対象である空間範囲)をコードすることを示した。平成30年度は、空間性注意の制御における前頭葉皮質領域間の相互作用を明らかにするために、課題を遂行中のサルの補足眼野と前頭眼野から局所場電位を同時に記録した。左半球の補足眼野と前頭眼野から同時記録した局所場電位についてグレンジャー因果解析を行った結果、右半視野へ注意を広く向けたとき、20ヘルツ前後の周波数帯域(ベータ帯域)において補足眼野の神経活動が前頭眼野の神経活動に影響を与えていることが明らかになった。次いで、選択肢が呈示されることによって後のサッカードのターゲットが決まり、半視野内の特定位置に注意を向けると、ベータ帯域の強い影響は消失した。この結果は、右半視野へ注意を広く向けているとき特異的に、反対側である左半球の補足眼野から前頭眼野へ、ベータ帯域を介して情報が流れていることを示している。さらに、補足眼野へスパイク活動抑制物質を注入したところ、左半球の前頭眼野のベータ帯域のパワーの増大が消失した。この結果によって、補足眼野が前頭眼野へ注意制御に関わる信号を、ベータ帯域を介して送っていることが示された。以上の結果により、空間性注意の制御における前頭葉-大脳基底核回路の神経メカニズムの一端を明らかにした。本研究成果を国際学会にて発表した。国際専門誌への論文投稿準備を進めている。
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