研究課題/領域番号 |
15K16021
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
広瀬 修 金沢大学, 電子情報学系, 助教 (30549671)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ライブセルイメージングデータ / 粒子フィルタ / 物体追跡 / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
楕円形状の複数対象物体の同時追跡手法の開発 線虫の神経細胞の活性に関する動画像データからの神経細胞の追跡を平成27年度の課題とした.対象となる動画像は奥行きのある3次元動画像であるため, 試作段階のソフトウェアのさらなる拡張が必要であった.以下の順で研究を進めた. (1) 3次元動画像への対応. まず試作済みの 2次元動画像用ソフトウェアを3次元動画像へ対応させた.これは現在解析対象としている神経細胞の動画像が3次元であるためである.しかしながら,解析対象とする線虫の動画像に限らず例えば The Cell: An Image Library に登録されている多くの動画像が3次元であり,汎用性という意味でも意義のある拡張である.拡張に必要な作業は単に対象物の座標を2次元から3次元に変更するのであり,比較的単純な作業であった. (2) 対象物の出現・消滅への対応. 現在対象としている動画像では神経細胞の活性の増加・減少に応じて追跡対象の出現・消滅が起こるため,出現・消滅への対応が必要不可欠である.標準的な粒子フィルタでは消滅中に対象物が予測不可能な動作をした場合,それ以降の追跡に失敗することが多い.消滅中の対象物の位置予測に使う情報が,対象物の最後に出現した位置のみになるからである.本研究では,複数物体の共変動という性質 に着目し物体追跡に他の対象物の相対位置を考慮に入れる拡張を行ったところ,消滅中も高い精度での物体追跡を行うことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞追跡アルゴリズム「空間粒子フィルタ」の提案 細胞画像中の多数の細胞を高精度で同時追跡するために粒子フィルタの改良手法を提案した.その際,類似手法であるマルコフ確率場を利用した粒子フィルタ (MRF-PF) のサンプリングの課題を克服するために,効率のよいサンプリング手法を開発する必要があった.以下がそのアイデアである.標準的な粒子フィルタにおけるサンプリングの非効率さは,時間情報からの細胞位置予測の難しさに由来する.この非効率性を克服するためのアイデアが細胞運動の空間的依存性(共変動性)を提案分布の設計に組み込むことであった.もし現在と1つ前の観測時点における標的細胞の周辺に存在する細胞の位置が既知であり,細胞運動が空間的に強く依存しているのであれば,標的細胞の位置はその空間的依存性から効率的に予測することができる.そこで,粒子フィルタにおける時間情報からの提案分布の代わりに,空間情報に基づいて標的細胞の位置を予測する提案分布を設計した.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には,より汎用的な追跡手法の開発を目的として形状変化を考慮した自由形状対象物の追跡手法の開発を行う.発生段階での細胞分裂動画像における染色体の追跡や複数の遊走細胞の追跡など様々な動画像への応用を予定している. (1) 自由形状対象物への対応: まず追跡対象物を自由形状物に拡張する.ここでの自由形状物とは例えは神経細胞に対する星形の形状のように,球や楕円体などの単純な形状をとらない対象物である.これは場当たり的な探索に対する正解判定を改良することで変化を伴う自由形状物体に対応可能である.具体的な方法として,例えば星形という形状を正解とするのではなく, 初期静止画像内の追跡対象物画像をそのまま正解とする方法が考えられる. (2) 対象物の経時的な形状変化への対応: 次に追跡対象物の形状変化への対応を行う.細胞分裂時の紡錘体や組 織内を移動する細胞である遊走細胞は,時間の経過とともに形状が変化する.この場合に,追跡の良さの判定素材として追跡対象物の代表的な静止画像(テンプレート)を利用する標準的な手法を採用すると,形状変化 に対応できないため追跡精度が著しく低下する.この問題に対処するためにテンプレートを経時的に変化させる方法を導入する.具体的には,現在時刻からある程度以前の時間までの追跡対象に対応する部分画像の移動平均により判定素材を更新させる方法を実装する.
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次年度使用額が生じた理由 |
残額1956円以内での支出が難しかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
ボールペン・ノート等の消耗品として支出する.
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