近年,生理指標や表情,行動,音声などの情報を用いた快不快推定が盛んに行われている.快不快はヒトの高次の認知機能によって生み出されているため,多種多様なセンサを用いてヒトの状態を計測したとしても快不快推定に十分な情報が得られるとは言い難い.本研究では,快不快の対象となる環境自体にヒトが知覚できない程度の微小な時間的・空間的変化を与えることで,ヒトの無意識の行動や状態の変化を誘発し,快不快推定に有効な情報を得ることを目指した. 申請時は2年間の研究を計画しており,平成27~28年度に以下の研究を行った. ・デスクワーク時の照明環境に対する快不快状態を環境埋込み型のアンビエントセンサを用いて推定した.まず,被験者実験を行い,照明環境を微小変動させることで誘発されるヒトの無意識的行動の計測を行った.実験では,机上面の照度を8パターンに変動させ,そのときの眼球運動,着座姿勢の変化,ペン先の動きをそれぞれ筋電計,座圧計,赤外線カメラを用いて計測した.センサデータから抽出した様々な特徴量に対し,SVMを用いて快不快推定を行った.評価実験の結果,照度を微小変動させることで,照度が一定の場合よりも推定精度が大幅に向上した. ・入手が容易で汎用性の高いカメラのみを用いて,ヒトの顔画像に基づいた精神疲労状態の推定を行った.顔画像中の強度の時間変化を表す特徴として頬領域における強度の時間変化の周波数スペクトルを,空間的変化を表す特徴量として目と口の領域のHOG特徴量を抽出した.これらの特徴量をLTEを用いて統合しSVMを用いた疲労の認識を行った結果,顔器官特徴点の位置変化や顔画像から抽出した心拍変動に基づく従来手法よりも大幅な推定精度の向上を確認した. 以上の研究成果を論文誌へ投稿するために研究期間を1年間延長し,平成29年度は各テーマについて論文誌にそれぞれ投稿し,採択された.
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