研究課題/領域番号 |
15K16026
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
満上 育久 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00467458)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歩容解析 / ビッグデータ |
研究実績の概要 |
コンピュータビジョン分野における歩容解析技術の多くは個人認証を目的としていたため,認証性能評価によって歩容特徴や解析技術の良し悪しが議論されてきた面がある.そのため,歩容特徴量の中に混在している身体形状情報と運動情報を区別する必要性が無かった.一方で,シルエットベースの手法が高い認証性能を示すことが知られ,歩容特徴の有用性が着目されるようになると,それを個人認証という目的だけでなく,エンターテイメント・医療・福祉等,他のアプリケーションへ利用しようという発想が生まれるが,それらの応用においては,例えば異なる人物間での歩行運動の共通性・相違性に着目したい等,身体形状情報と運動情報を区別して利用したい場合が多く存在する.このようなニーズを踏まえ,本研究課題では,歩容の観測から,その身体形状情報と運動情報を分離するための技術開発を目的としている. 平成27年度は,本研究を進める上で重要となる歩容データ収集に注力した.研究代表者が参画するCREST「歩容意図行動モデルに基づいた人物行動解析と心を写す情報環境の構築」(研究代表:八木康史)と連携し,平成27年7月から約1年間の予定で,東京都の日本科学未来館で歩容データ収集のための常設デモ展示を実施し,昨年度末までに約7万人の歩容データを収集した.展示終了時(平成28年6月)には約10万人分のデータとなる予定であり,これは圧倒的に世界一の規模の歩容データベースとなる.また,技術開発・評価の面では,平成26年度に国際論文誌で発表したレンジセンサによる手法を,現実的な利用シーンを想定したデータについて性能評価を行い,国際論文誌に採択された.また,本研究に関連するこれまでの成果について,国際ワークショップでの基調講演を1件,国際会議での招待講演を2件,国内研究会での招待講演1件行ったことも,特筆すべき成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は,研究代表者がCREST「歩容意図行動モデルに基づいた人物行動解析と心を写す情報環境の構築」(研究代表:八木康史)に参画し,現在の歩容特徴抽出手法の限界(身体形状情報と運動情報を分離できない点)を認識したことから着想したものであり,このCRESTプロジェクトの最終年度である平成27年度に本研究課題がスタートした.しかし,本研究課題採択後に,日本科学未来館の要請を受けCRESTプロジェクトとして1年間の常設デモ展示を行うことが決まり,そこで約10万人の歩容データベースが得られることとなった.これは,圧倒的に世界一の規模のデータベースであり,このような大規模データベースが得られたことは,当初計画を大幅に上回る重要な成果である. 技術開発・評価の面では,平成26年度に国際論文誌IPSJ Transactions on Computer Vision and Applicationsで発表したレンジセンサを用いた,運動情報の分離が可能な歩容認証手法について,それをより現実的な利用シーンに適用した際の性能評価行った.この成果は,平成27年度に同論文誌に掲載された. また,研究代表者は上述のCRESTプロジェクト等で,本研究課題に関連する歩容認証・解析技術について研究しており,それらの成果について基調講演・招待講演の依頼を受けた.具体的には,クアラルンプール(マレーシア)で行われた国際ワークショップにおいて基調講演,北九州(日本)とバンコク(タイ)で行われた国際会議で招待講演,さらに国内研究会でも招待講演を行い,これらの講演の中で最近の成果として本研究課題の成果についても情報発信した.
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今後の研究の推進方策 |
歩容解析に関する研究を行う上で,日本科学未来館で得られる10万人データベースは極めて有用である.しかし,運動情報の抽出という本研究課題のフォーカスに直接的に寄与するデータとして,同じ人物の長期間に渡るデータや異なる服装でのデータの収集が必要となる.これについては,日本科学未来館の展示が終了する平成28年6月末までに,現地に常駐するスタッフを継続的に撮影することで実現する. また,CRESTプロジェクトで,平成28年度第一四半期に複数の高齢者施設に歩容計測システムを設置し,今後数年間に渡り長期的に高齢者の歩行データを収集する予定である.ここでも,各被験者について長期間に渡り複数の歩容データを得ることができることから,これを本研究課題でも活用し,そこに内在する運動情報の共通性の抽出と解析を行う. さらに,運動情報をより直接的に獲得する方法として,歩行者にモバイル端末を着用させ,そこに内蔵されるモーションセンサの情報を用いるアプローチについても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,平成27年度に歩容データの収集のために予算を計上していたが,研究代表者が参画するCREST「歩容意図行動モデルに基づいた人物行動解析と心を写す情報環境の構築」の一環で日本科学未来館で大規模歩容データベースが得られることになったことから,計画を変更し,次年度以降のデータ解析にその予算を充てることとした. また,旅費については,招待講演で旅費が他の財源や先方により支払われたものがあるため,当初計画よりも少ない額で済んだため,これも次年度以降の成果発表・情報収集に充てることとした.
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次年度使用額の使用計画 |
日本科学未来館で得られた10万人データベースおよび高齢者施設で得られる長期データの解析が平成28年度から可能になる.これらは当初計画で想定していたよりも遥かに膨大なデータとなるため,その処理のために強力な計算機を導入する予定である. また,このビッグデータにより複数の成果が見込まれるため,当初計画よりも大きな額を旅費に充て,積極的に情報発信を行う. さらに,当初計画になかった内容としてモバイル端末を用いた歩容の運動情報獲得を検討していることから,繰り越した予算の一部をモバイル端末やセンサの購入などにも充てる.
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