本研究課題は,半透明物体の散乱パラメータや幾何情報を画像から取得するために,コンピュータビジョンによる画像解析に適した表面下散乱現象の新たな数理モデルを開発することが目的である.平成30年度は,実物体における不均一な表面下散乱現象を計測し,さらにコンピュータグラフィクスにより再現するため,新たに時間同期式のプロジェクタ-カメラシステムを構築した.表面下散乱を物理的に正しく扱う場合,半透明物体中を進む様々な光の経路を考慮する必要があり,従来,この経路長に応じた散乱光の強度の観測には膨大な計測時間が必要であった.本システムはラスタスキャン式のプロジェクタとローリングシャッターカメラからなり,プロジェクタの照明タイミングとカメラの露光タイミングとを小型マイコンによって同期制御することで,与えられた同期遅延時間に応じて異なる伝搬距離の散乱光成分が取得できる.従って,本システムを使用することで被写体内に広がる散乱光を少ない計測時間で取得することが可能となった.本研究は,コンピューテショナルフォトグラフィ分野のトップカンファレンスであるIEEE International Conference on Computational Photography (ICCP) 2018に採択され,またバーチャルリアリティ分野の有力なカンファレンスであるACM Virtual Reality Software and Technology (VRST) 2018にてベストポスター賞を受賞した.また,国内会議ではVC2018にて優秀研究発表賞,MIRU2018にてデモ発表賞を受賞した.
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