人間中心設計による製品やサービスの開発を行う際には、その上流工程で、ユーザ調査の結果にもとづいて「利用状況の理解と明確化」を行うが、本格的なユーザ調査を実施できる専門家の絶対数が少なく、ユーザ調査が適切に実施されていない場合が多い。このことは、製品やサービスのユーザニーズへの不適合や開発の非効率化といった問題を生む。一方で、ユーザ調査の実践的スキル習得のための教育技術も未開発で、従事者に求められる能力、すなわちコンピタンスは明確になっていない。 本研究では、ユーザ調査の実践的スキル習得のための教育技術を発展させることを目的として、初学者が効率的に技能を身につけてユーザ調査を適切に実施できるようになるための支援ツールを開発した。また、その過程において、ユーザ調査の従事者に求められるコンピタンスを明らかにした。 平成27年度には、ユーザ調査の実施における初学者の課題の明確化を目的とした初学者のユーザ調査遂行場面の観察を実施した。様々な経験レベルの従事者によるユーザ調査の実施場面の観察から、各事例における問題点をあげ、調査の各段階における作業とその遂行に必要なコンピタンスを抽出し、その妥当性を検証した。平成28年度には、前年度に明らかにした調査の各段階における作業内容とその従事者に求められるコンピタンスについて、それぞれの重要度を評価し、各コンピタンスを「座学で教育可能なもの」と「実査経験によって培われるもの」、「資質」の3つに分類した。 平成29年度には、ユーザ調査の流れと調査の各段階における具体的作業について、初学者向けにまとめ、前年度に分類した3つのコンピタンスのうち、特にユーザ調査を行う上で基盤となりうるコンピタンスについて、教育方法について検討し、まとめた。
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