研究実績の概要 |
最終年度である本年度の研究は、句の意味計算技術の理論化と構築についての以下の三つの課題について、これまでの研究成果をとりまとめ研究発表を行った。 (1) 述語の項構造解析:前年度に開発したニューラルネットを用いた世界最高精度の項構造解析器を精緻化し、国際会議論文として発表した (Matsubayashi and Inui 2017)。また、この解析器を事前の構文解析処理を必要としない end-to-end と呼ばれる方式に改良し、文中の複数の述語間の相互作用をモデル化することで、特に日本語に頻出する省略表現の解析精度をさらに飛躍的に向上させることに成功した。この成果は現在国際会議論文に投稿中である。 (2) 絵本への項構造アノテーション: 日本語のように省略表現が多用される言語において、人間が述語の意味や項構造、文法的振る舞いのルールを獲得するのに必要となる要素を分析するために、絵本に対する項構造アノテーションを実施し、その構築方法とデータの性質を報告した (折田, 石井, 鈴木, 松林 2018)。 (3) マルチモーダルな情報を考慮した文章生成モデル:言語外の情報と文の意味や構造の一貫性を計算する応用研究の一環として、歌詞生成を題材に、入力されたメロディに対してメロディの並びや休符の位置などの音楽的構造と一貫性を持つ歌詞を出力する文章生成モデルを実現した。この成果は翌年度に主要国際会議論文として報告する(Watanabe, Matsubayashi, et al., 2018)。また、日本各地の方言による対話データを書き起こした文章を標準語に翻訳する多言語翻訳の研究を進め、日本語方言においては文節単位の逐語翻訳が極めて有効な手段であることを突き止めた。また、類似する方言間のデータを共有することで効率的な翻訳が行えることが確かめられた (阿部, 松林 2018)。
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