研究実績の概要 |
本年度は, 主にこれまでの研究で得られた実験データをもとに, ネットワーク分析またはモデル化を行った. 実験データは10匹の鮎を自由な環境のもとに泳がせ, 10分間の撮影, 軌跡の解析を行った. これらの実験を通して, 我々は3つの事実を発見した. まず, 一つ目は鮎の群れの持つネットワーク構造の動的な変化である. 魚の群れのネットワーク構造はCouzinらの研究が代表されるが, その動的な変化とその特色についてはまだ明らかにされていない. 我々は, ネットワークの頑健性と収束速度の関係が時間とともにどのような変化をしているのかを明らかにした. 具体的には, 動的なネットワークにおいて, ネットワークの頑健性(壊れにくさ)と収束速度(情報伝達速度)はトレードオフの関係にあることを示し, 鮎の群れはそのトレードオフを弱めようとして働いていることを明らかにした. また, Bahlらの研究にあるような, 円筒状の環境下では, 鮎の群れは今まで他の動物と異なる行動特性を示すことを明らかにした. 具体的には, 円筒の中心に個体がいるかないか否かで, 鮎の群れの円筒内のまとまり方が異なることを明らかにした. つまり, 個体が中心にいるときは, より群れの平均距離は増加し, いないときは平均距離が減少する. この研究は, 身体イメージの非所有性への展開を予想させる結果であり, さらなる調査が要求される. さらに, 我々は群れの中の時間的な構造を考慮に入れたモデルを作成した. 異なる時間を内在する群れは, 群れの秩序が無秩序を基盤にして成り立っているということを示すものである. この研究についても, 実験データとの照合などさらなる探求が要求されるものである.
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