本研究の項目(A)では体内時計や脳に見られる振動現象に関する理論的課題に取り組んでいる。27年度に提案した時差ボケ現象を説明する数理モデルを用いて、シフトワーカーの問題に取り組んだ。2つの異なるシフトスケジュールを考え、体内時計の順応性の差をシミュレーションによって調べた。この結果、ローテータと呼ばれる種類のスケジュールが順応を著しく妨げることが示唆された。マウスの実験研究者と実験検証について打合わせを行った。 (B)では確率的に状態遷移する素子集団のダイナミクスを取り扱う理論枠組みを構築し、ゆらぎを伴う複雑な振動や神経興奮の集団ダイナミクスの新規解析手法を提案することを目指している。28年度にPNAS誌より、分子時計が低温条件下で停止することを報告した。これの理論を本枠組みを用いて構築した。その結果、分子時計の停止は、分子レベルのリン酸化サイクルの脱同期が引き起こすことが示唆された。この結果は日本物理学会2017年秋季大会で口頭発表した。 項目(C)では特定の機能を最適化する振動子ネットワークのネットワーク構造の探求に取り組んでいる。ゆらぎ強度が不均一な振動子集団において、同期度をネットワーク構造から求まるラプラス行列の固有値・固有ベクトル関係づける理論をすでに構築していたが、具体的な問題を設定しそれらに対する最適ネットワーク構造を求めた。また、新たに、空間に広がる素子間のシンクロを最適化するネットワーク構造の理論を構築した。
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