人はロボットに物体を指示する際,物体を特定するための情報量が不足した指示行動を行うことがあるが,これは指示物体認識の誤認識を増大させるという点で問題である.本研究では,人間とロボットの物体指示対話における言葉と指差し動作の引き込み現象に着目し,ロボットが物体の特定に必要な情報量を考慮した確認行動を行い,人から適切な情報量の指示行動を引き込むことで、情報量の不足にロバストな指示物体認識システムを構築した. 当該年度では,前年度に構築した音声・指さし方向・顔向きから指示対象物をロバストに推定する技術と,その推定結果と物体の置かれた環境情報から適切な情報量で構成される発話内容と指示動作を生成するアルゴリズムを実装したプロトタイプシステムを開発し,明示的な指示方法の依頼をする場合と暗黙的に指示方法を引き込む場合との比較実験を行った.その結果,両者のアプローチで指示物体認識性能に有意な差は認められなかった.しかしながら,暗黙的に指示方法を引き込む場合,人は,明示的な指示方法を依頼する場合に比べ,面倒さやわずらわしさに関する評価が有意に下がり,自然さに関する評価や総合的な印象が有意に上がっていた.これは,本研究で提唱する暗黙的に指示方法を引き込むアプローチが,明示的な指示方法の依頼と同程度の認識性能を出しつつ,物体指示対話においてロボットに対する印象をより向上させられるという点で,有用であることを示している.本研究成果は人とエージェントに関する査読付き国際会議HAI2016に採択され,Best Student Award Candidatesを受賞し,国際的に高い評価を得ている.また,実験結果の精緻な分析から,女性の方が男性よりロボットの行動に引き込まれる度合いが高いという性差を新たに見出した.これは指示物体認識性能向上のための対話戦略をより効果的に用いるために有用な知見である.
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