研究課題/領域番号 |
15K16084
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
藤原 伸一 鳥取大学, 医学部, 准教授 (00362880)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 結合自由エネルギー / タンパク質 / リガンド / プロトン化状態 / MM/GBSA |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タンパク質-リガンド間相互作用解析のための、結合自由エネルギー計算の正確度向上である。そのために、結合自由エネルギー計算に用いる立体配座をpH 一定の分子動力学シミュレーション(CpHMD)により発生させる。これにより、従来法とは異なり、アミノ酸のプロトン化状態が異なる立体配座を、一度に複数発生させることができる。さらに、得られる立体配座では、各プロトン化状態の割合が実際の現象に則したものになっている。本研究では、プロトン化状態を考慮すべきアミノ酸残基が少ない場合、多い場合それぞれについて本手法を検証し、結合自由エネルギー計算の正確度の観点から、その有用性と限界を明らかにする。
平成27年度は、プロトン化状態の違いを反映させるアミノ酸残基の個数が少ない場合についての検討に着手した。具体的には、ヌクレオチドプール浄化酵素MTH1への酸化ヌクレオチド8-oxo-dGMPの結合に関するCpHMDシミュレーションを、水を連続体とみなす条件(implicit solvent)で実施し、様々なプロトン化状態を含んだ立体配座を発生させた。併せて、本手法との比較対照として、従来法(プロトン化状態が一定のGB法)によるMDシミュレーションも実施し、比較対象用の立体配座を発生させた。一方、MM/GBSA法に基づく結合自由エネルギー計算では、CpHMDシミュレーションにより得られた、様々なプロトン化状態を含んだ立体配座を扱えるように、分子動力学計算用プログラム(AMBER14)の一部を改変し、その動作確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)方針の変更:MTH1のCpHMDシミュレーションにおいて、当初はリガンド結合部位のアスパラギン酸残基(Asp119, Asp120)のみをプロトン化状態変化の対象と想定していた。しかしながら、当該年度に発表されたCpHMDシミュレーションに関する論文を調査する過程で、特定のアミノ酸のみをプロトン化状態変化の対象とするのは問題があると考えるようになり、MTH1においては、アスパラギン酸(12残基)、グルタミン酸(12残基)、ヒスチジン(3残基)の全てをプロトン化状態変化可能としてCpHMDシミュレーションを行う方針に変更した。
(2)MM/GBSA法に由来する問題:プログラムの改変により、CpHMDシミュレーションにより得られる、様々なプロトン化状態を含んだ立体配座を結合自由エネルギー計算で扱えるようになった。しかしながら、MM/GBSA法では、一般的に(CpH)MDシミュレーションの初期条件が異なる立体配座のデータを用いると、得られる結合自由エネルギーの値が大きくずれることがあることが分かった。そのため、現状では、結合自由エネルギー計算において、このずれと本手法と従来法のずれを識別できない。加えて、結合自由エネルギーの実験値(ミカエリス定数の文献値から算出)との比較も困難である。そこで、まずはMM/GBSA法の計算条件を定めるところから始める必要があり、現在は短時間の(CpH)MDシミュレーションを複数回走らせることで、結合自由エネルギー計算の精度問題についての解決を試みているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は、プロトン化状態を取り入れた結合自由エネルギー計算の有用性と限界を明らかにすることである。これを実現するためには、結合自由エネルギー計算(MM/GBSA法)において、計算値の精度と正確度を保証する必要がある。そこで、以下の要領で研究を進める計画である。
(1)MM/GBSA法の計算条件の決定:従来法との比較、実験値との比較ができるよう、MM/GBSA法の精度を保証できるような手法を確立する。また、昨年度は自由エネルギー計算にエントロピー項を含めていないため、これを含めることで、計算値の精度・正確度について検討する。
(2)水分子を明示的に扱う条件(explicit solvent)での結合自由エネルギー計算:MTH1を対象とし、CpHMDシミュレーションの計算条件を定める。併せて、水をimplicitに扱う場合と同様、様々なプロトン化状態を含んだ立体配座を扱えるように、分子動力学計算用プログラム(AMBER14)の一部を改変し、本手法において水分子の取り扱い方が及ぼす影響について検討する。
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