本研究の目的は、タンパク質-リガンド間相互作用解析のための、結合自由エネルギー計算の正確度向上である。そのために、結合自由エネルギー計算に用いる立体配座をpH一定の分子動力学シミュレーション(CpHMD)により発生させる。これにより、従来法とは異なり、アミノ酸のプロトン化状態が異なる立体配座を、一度に複数発生させることができる。さらに、得られる立体配座では、各プロトン化状態の割合が実際の現象に則したものになっている。本研究では、本手法の検証、ならびに結合自由エネルギー値の観点から、本手法の有用性と限界を明らかにする。 平成29年度は、前年度に続き、ヌクレオチドプール浄化酵素MTH1への酸化ヌクレオチド8-oxo-dGMPの結合を対象とした計算実験を実施した。Explicit solvent条件下での結合自由エネルギー計算について、本手法をプロトン化状態が不変の従来法と比較した。Implicit solventの場合と同様、本手法では従来法に比べて結合自由エネルギー値が10kcal/mol程度低い値をとっており、CpHMDシミュレーションにより各アミノ酸残基のプロトン化状態が適切に決定されたことが示された。さらに、結合自由エネルギーの計算値をミカエリス定数から求まる結合自由エネルギーの実測値と比較すると、implicit solvent CpHMDの場合に比べてexplicit solvent CpHMDでは実測値により近い結果となった。これより水分子を考慮したExplicit solvent CpHMD計算に基づく結合自由エネルギー計算の有用性が示唆された。 一方、特にExplicit solvent CpHMD計算では、プロトン化状態の割合がシミュレーションごとに大幅に異なる場合があり、プロトン化状態を考慮すべきアミノ酸残基数を絞るなどの工夫が必要であることが分かった。
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