高付加価値なサービスを設計するためには、顧客と提供者の双方に与える価値を設計段階でのシミュレーションにより早期に評価し、設計内容へフィードバックすることが求められる。サービスにおける顧客の価値には、基本価値、感情価値、知識価値の3つの観点が存在する。基本価値は製品・サービスの機能や品質、感情価値は顧客が製品・サービスの利用を通して知覚する感情、そして知識価値は顧客が得る知識やノウハウを指し、これらは相互影響関係にある。サービスの顧客価値の評価に際し、その観点として従来から取り扱われている基本価値のみを考慮するだけでは、感情価値や知識価値が与える上記のような基本価値への影響を捉えることは困難である。そのため、本研究では、サービス設計において、上記に示した3つの観点の顧客価値を考慮し、顧客に与える価値を適切に評価可能とするシミュレーション技術を提案した。 基本価値に関しては、ある程度の定量化した情報として取得可能である。一方で、感情価値や知識価値に関しては、個々の顧客に依存し客観的な測定が難しいことから、基本価値と同様の定量化は困難である。このような特徴を持つ顧客価値の各観点を、モデルの構成要素として表現するために即する手段として、定性的な系のモデル化とそれを用いた状態推論が有効である。以上から、本研究では、サービス設計に対して定性シミュレーションの手法を適用した。 提案する手法を、ITシステム提供者と顧客企業IT部門との協業型フルアウトソーシングサービスに適用した結果、最終的に妥当であると判断されたモデルから出力されたシミュレーション結果を基にサービスの顧客価値の評価を行うことで、設計の早期段階において設計内容への有益なフィードバックの材料を得ることが可能であることを確認した。
|