研究課題/領域番号 |
15K16094
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
松井 加奈絵 東京電機大学, 理工学部, 助教 (30742241)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HEMS / PMV / 室内快適性 / 情報提示 / HAVCシステム |
研究実績の概要 |
本研究では快適性を考慮したHEMSの在り方を確立するために,(1)各世帯構成者の快適域の把握,(2)快適域の機械学習,(3)導かれた快適域と省電力のバランシングを考慮した情報提示による自律的制御,の3項目を実施するものである. 本研究では家庭内という極めて個人的な場において重要視される快適性に着目し,HEMSの導入によって(a)エネルギー消費量削減,(b)室内快適性維持,双方の達成を目的とした.室内快適性の計測には建築分野にて使用される室内温冷感快適指数のPMV(Predicted Mean Vote)を使用した.本指数は,環境データ4種類(室内温度,室内湿度,照度,風速),身体データ2種類(活動量,着衣量)の6種類のデータを計算式により算出し,一般的な快適域を測ることができる.これらのデータを計測センサとWebベースのアンケートによって定期的に値を算出することで,変化し続ける室内環境において住人の快適域,またパターンをデータベースに蓄積する.本データを活用することで,各個人の快適域を保つために適した情報をWebページから提供し,快適性を担保する.本システムの有用性の検証のために開発したデバイスを実際の世帯に導入し,(i)センサ,Webアンケートから取得するデータ,(ii)得られたデータの検証を行うことができた. 当初の目的では2015年冬期から実証実験を開始する予定であったが,β版を2015年の夏期から4世帯に,また冬期に4世帯にそれぞれ設置した.これらの結果を受け,エネルギー需要が上がる夏期,冬期の貴重なデータを収集ことが可能となり,また実データの解析から,夏期,冬期ともに室内快適性を考慮した情報提示によって電力消費量,室内快適性の定量的,定性的に向上が見られた.本結果については2つの国際学会,1つの国内研究会の依頼講演として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては,(1)各世帯構成者の快適域の把握,(2)快適域の機械学習,(3)導かれた快適域と省電力のバランシングを考慮した情報提示を行うシステムを開発し,実証実験を実施した.システムの詳細は,計測システムに対応したハードウェアおよびソフトウェア,快適域・提示情報データベースである.計測システムは環境データを計測するための各種センサを内蔵したネットワーク対応の小型機器,身体データ被験者から入力してもらうためのスマートフォン向けのWebベースアンケートシステムを開発し,これらのデータを処理するデータベースをインストールした機器に統合した.本機器は920MHz帯で環境センサと,また家庭のWi-Fiルータに接続することでスマートフォンとの通信を行なう.これら蓄積したデータから世帯構成者の快適域を把握するため,計測して導き出されたPMVの値と,被験者を対象としたアンケートから取得した室内快適性における5段階の値を照らし合わせ,機械学習プログラムによって4つの属性(PMVの値に従順である,従順でない,暑がり,寒がり)に分類した.本プログラムでは分類のみに留まらず,提供情報への5段階評価によって各被験者からのフィードバックを重み付けとして使用した.次に,本分類によって被験者の嗜好性に合わせた情報を提示するよう,属性付きの情報データベースを作成した.情報はエネルギー消費とともに環境変化の高い夏期,冬期向け,また中間期に合わせ,窓の開閉など被験者が容易に実施できる行動モデルに即した内容で構成されたものであり,現在タグ付き300種類の情報を生成した.本システムを夏期,冬期において全8世帯に設置し,各住民の快適性嗜好を取得,その嗜好に合わせた情報提供を行うことで,提供を行わない時と比べ約5%の電力消費量削減,約70%の室内快適性の向上が見られたことが重要な成果として挙げられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方策として以下3点をあげる.(1)初年度に実施した実証実験の結果を反映したシステムの改良,(2)実証実験の増加およびデータのボトムアップ,(3)国内外の論文誌および学会への投稿および研究内容の公開である. 項目(1)においては,ハードウェア,ソフトウェア改良によって計測データを拡張する.室内位置測定における室内行動パターンデータと室内CO2濃度の計測を行う.室内位置測定にはビーコンを搭載した親機を室内に設置,子機を被験者に付けてもらうことで活動量計測を行うだけでなく,行動パターンを把握することでより的確な情報提示の実施をはかる.また室内CO2濃度に関しては,人が集中する際に適した値など生活シーンに合わせた利用が期待できるため導入を実施する. 項目(2)においては,実証実験の世帯の増加および長期間の実験実施を行う.これまでは夏期,冬期に集中して実験を実施したが,近年の異常気象を加味した場合どのような快適性維持が望ましいのか考慮するために多種多様な条件のデータの収集を行う.また,実証実験の大幅な増加はリソースが限られているため難しいが,外部の世帯別の電力消費,全国の気象,世帯別特性といった公開データを利用することでボトムアップをはかり,有用性の精度を高める. 項目(3)においては,国内外の論文誌および学会への投稿の実施を行う.また今回は快適性維持のプレイヤーを被験者に設定し,快適性維持のための行動変容を促すことで空間制御を試みたが,今後安価なネットワーク対応の空調家電の普及することを想定した場合,家電の自動制御と2軸で行うことが望ましい.そのため,本研究で得られたデータおよびソフトウェア開発のためのソースコードの公開を行うとともに,家電制御に役立てるための解析結果についても公開を専用Webページにおいて実施する.なお,収集したデータに関しては匿名化処理を施す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は2カ年計画であるが,初年度にシステム開発に注力したことで実証実験の開始を冬期から夏期に早めたことが理由としてあげられる.本方策を行った理由として,日本におけるエネルギー需要が拡大する夏期のデータの収集を行うことでデータの有用性を高める,また快適性が著しく下がる夏期と冬期の情報提示における反応の違いの検証に使用することで本研究の精度を高める,の2点があげられる.本使用額の変更に伴い,(1)実証実験に必要であるシステム開発に研究資金を使用することでデータ収集時期の長期化をはかった.また(2)開発システムに柔軟性を持たせることで最終年度に予定していたシステム開発費の使用をせずとも,センサノード,拡張機能の追加を容易にし,初年度の実証実験で得られた知見を活かしシステム拡張を研究代表者自身が行えるよう設計することで最終年度の使用予定費用を賄った.
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度度の主な使用計画は,(1)センサモジュールの購入,(2)被験者の拡充,(3)研究発表実施費用,である. 項目(1)によって実証実験を行うためのハードウェアの台数を増加し,項目(2)の被験者の拡充につなげ,データ収集の拡大をはかる.本研究では個人の快適性嗜好に合わせたHEMSシステムの開発を主たる目的としているため,個人の嗜好性の指標となるPMVデータ,またPMVに対する個人のフィードバックデータの多さは研究精度を高める上で大変重要なものとなる.また,研究発表として国内外の学会参加,また国内外の論文誌への投稿による学術的な貢献は必須であるため,これらの項目に対し使用を行う予定である.
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