本研究は、地域コミュニティに属する人の「語り」に着目し、これを蓄積し文脈に応じて出力、それによって「コミュニティの物語」を提供する新しいタイプの地域アーカイブを構築することにより、地域における情報技術の活用に新しいモデルを提案するとともに、地域コミュニティにおける「語り」の果たしうる役割を実証的に研究するものであった。対象となった地域は可住面積の6割が東日本大震災の津波被害をうけた宮城県亘理郡山元町であった。この町には東日本大震災発生10日後から放送を開始し、2017年3月31日まで放送を継続した臨時災害放送局「りんごラジオ」があった。この臨時災害放送局の特徴は、町内で取材した局オリジナルの番組を長期にわたってほぼ毎日放送していたことであった。放送局そのものはもとより、放送記録についても地域におおいに貢献しうると考えられた。しかしながら臨時災害放送局の記録はそのような機能を有しておらず、デジタル化されていないものも含め、さまざまな記録が連結されることなく独立して存在していた。そこで本研究では、人々の「語り」を重視してきたりんごラジオの放送記録をデジタル化し、この記録データを中心とするアーカイブシステムを構築し、復興記録の地域における活用について調査した。具体的には、放送記録のデジタル化と整理をおこない、アーカイブシステムに搭載した。その放送記録の分析により、臨時災害放送局が扱うべきコンテンツのモデルを示した。また、ラジオ局閉局後の記録の扱いの状況・町民による記録の活用等について、ラジオ局内での調査や地域住民に対する聞き取り調査を実施した。それらの結果から、東日本大震災後に運営が長期化した臨時災害放送局のメディアとしての位置づけなどについて考察した。
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