本研究は、東京帝国大学、特にその部局の蔵書と助手に注目し、部局における知識基盤である蔵書がその組織を示す助手とどのような関係にあったのかについて明らかにすることを目的としたものである。2017年度の実績は、東京帝国大学工学部電気工学科の教官とその図書室の関係についての検討である。検討の結果は、2018年度日本図書館情報学会春季研究集会にて、「蔵書の分析による東京帝国大学工学部電気工学科図書室の教育、研究における位置付け」として発表される予定である。 3年間の主な成果については、(1)図書館を中心としつつ、東京帝国大学の学問的知の形成を明らかにしたこと、(2)東京帝国大学経済学部の助手と蔵書の関係について明らかにしたこと、(3)東京帝国大学工学部電気工学科の図書室と教官の関係について明らかにしたことがあげられる。 具体的には、(1)では、東京帝国大学では、それぞれの学問、学部、講座の学問的知は全体として共有されず、独自の方法で形成されていったことが明らかとなった。(2)では、経済学部の助手は研究のための身分であったが、図書の選書、分類、演習への出席などを通じて学部の教育・研究体制の中に位置づけられており、そうした運営組織が成り立っていたことで専門的かつ幅広い蔵書を持つ図書室が可能となっていたことが明らかとなった。(3)では、電気工学科図書室は、教官の研究のためではなく、学生の教育のために設置されていたこと、また東京帝国大学は講座制で決められた範囲内の研究や教育のみを行うように制度が設計されていたため、工学部の他の講座が主として研究する分野や新しい分野の図書はあまり購入されていなかったことが明らかになった。 今後は、経済学部と同様の検討を行うことで、電気工学科の助手と蔵書との関係について検討していく予定である。
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