研究実績の概要 |
≪1≫ 熱帯樹のセルロース抽出方法の検討: インドネシア産のチーク試料からセルロース抽出するための化学処理過程を検討した。従来の“年輪ごとに切り出した後 セルロース抽出をする方法(Harada et al., 2014)”と“板ごと抽出法(Kagawa et al., 2015)”の2手法を同一個体に適用し、セルロースの同位体比時系列を比較した結果、両者は有意な正相関を示した。さらに、“板ごと抽出法”による酸素同位体比の方が系統的にやや高い同位体比であったので、より純粋にセルロース抽出を行えていたと考えられる。セルロース抽出後の純度と分析の簡便性・迅速性という点から、“板ごと抽出法”の有用性を確認することができた。 ≪2≫ 古気候指標としての評価: 上記より確立したセルロース抽出方法に基づいて、チーク2個体(jatiNAN1; jatiNAN2)の炭素・酸素同位体比を年々スケールで分析した。加えて、年輪幅の計測も行い、得られた過去29年分の年輪構成要素(同位体比・年輪幅)と気象観測データとを比較対照し、現在の気候状態での対応関係を評価した。その結果、年輪幅については、生長期直前乾季の相対湿度や日照時間と有意な相関を示した。炭素同位体比については個体間相関が見られず、酸素同位体比には有意な個体間相関が認められた。さらに、酸素同位体比は、生長期雨季降水量と有意な負の相関を示した。従って、チークの年輪構成要素を複数分析することにより、季節スケールで古気候を復元していくことが可能である。 また、スンカイ試料についても2個体の分析を行うことにより個体間相関を検証し、重ねてプロキシとしての信頼度を評価した。その結果、2個体の酸素同位体比時系列には有意な相関があり、スンカイの酸素同位体比は共通の気候情報を反映している可能性が高いことが明らかになった。
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