研究課題/領域番号 |
15K16115
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井手 淳一郎 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 助教 (70606756)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 面源汚濁 / 富栄養化 / 安定同位体比 / 流出起源 / 流域 / McLaughlin法 |
研究実績の概要 |
本研究では近年進歩の目覚ましい,リン酸-酸素安定同位体比(δ18O-P)の解析手法を用いて中山間地域河川のリン(P)の流出起源とその特徴を明らかにすることを目的としている。本年度は土地利用の異なる河川のδ18O-Pの特徴を明らかにすることを目的に,様々なタイプの河川(山地,農地および都市河川)におけるδ18O-P分析サンプルの採取と,河川および岩石試料のδ18O-Pの分析手法の改良に注力した。 試験地は山地河川として斐伊川水系の三刀屋川を,農業河川として斐伊川水系の赤川を,また,都市型河川として多々良川を選定した。斐伊川水系の河川ではリン酸濃度が低く,質量分析計へ供するリン酸銀の試料精製のために20-60Lの試料水が必要であった。一方,多々良川のリン酸濃度は斐伊川水系のそれの2倍程度であり,20L程度の試料水でリン酸銀の試料精製が可能であった。 δ18O-Pの値は山地河川で19.6‰,農業河川で17.0‰,都市型河川で16.7‰であった。しかし,今回の分析では質量分析計の出力値であるピーク強度の積算面積が十分にとれておらず,δ18O-Pの値を再検討する必要がある。この原因として質量分析計へ供されるリン酸銀の収量が十分に得られなかったことが考えられた。McLaughlin法では,多量の河川試料水をリン酸銀に精製する際,質量分析の夾雑物となる有機物や塩化物イオンを取り除く。分析工程を精査した結果,塩化物イオンを取り除く工程で多くのリン酸を損失していることが示唆された。 岩石試料のδ18O-Pの分析については,その予備実験として滋賀県の安曇川流域で得られた試料を用いた。岩石からリン酸を抽出し,McLaughlin法を適用した。岩石のリン含量は河川水のそれにくらべ高いことから少量の試料(3-5g)であってもリン酸銀が質量分析できる程度に十分量得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
河川試料水のサンプリングについては概ね順調にこなせているが,質量分析計へ供するリン酸銀の試料精製に多くの時間がかかっている。これは,McLaughlin法では,最終産物であるリン酸銀の精製に1試料につき最低でも1週間を要するからである。加えて,McLaughlin法の分析過程で河川試料中のリン酸を損失しているため,質量分析に導入するのに十分なリン酸銀の試料を得られず,リン酸銀の再精製を行う必要性が生じている。このため,当初予定していたよりも倍以上の時間を分析に費やしている。
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今後の研究の推進方策 |
リン酸銀の精製過程で河川試料水からのリン酸が失われている工程を改善する。現在のところ,河川試料水から塩化物イオンを取り除く工程で多くのリン酸が失われている可能性があるのでこの工程を改良し,十分量のリン酸銀を一度の分析で精製できるようにする。また,本年度は山地河川,農業河川,および都市型河川のδ18O-Pの季節変化に焦点を当てた解析を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文原稿の英文校正のための助成金の使用が当初予定したよりも遅れてしまったため。また,最終年度の成果公表のための出版費や学会発表の費用に充てるために助成金を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度初めに予定していた論文原稿の英文校正を行う。また,成果公表の学会発表や論文出版費のために次年度使用額を充てる予定である。
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