研究課題
本研究では近年進歩の目覚ましい,リン酸-酸素安定同位体比(δ18Op)の解析手法を用いて中山間地域河川のリン酸の流出起源とその特徴を明らかにすることを目的とした。このため,1)δ18Opの分析法の改良を行い,2)河川のδ18Opの値の変動特性を捉え,3)中山間地域河川のリン酸の起源について検討した。中山間地域河川として斐伊川水系の河川(阿井川,赤川,斐伊川)と,その比較対象としての都市型河川(猪野川,須恵川)と農地型河川(菊池川)で試料水を年4回採取し,それらのδ18Opを分析した。また,河川のδ18Op値の変化の原因を究明するため,河川流域の岩石を採取しδ18Opを分析した。δ18Op分析においては質量分析計に導入するリン酸銀試料の収量を増やす工夫を行った。河川試料水から塩化物イオンを除去する工程においてリン酸セリウムの沈殿物を多く得る方法を発見し,これによってリン酸銀試料の収量を高め,より正確な質量分析の出力値を得ることに成功した。中山間地域河川,都市型河川,および農地型河川のδ18Opの平均値はそれぞれ15.7‰,16.5‰,18.6‰であった。河川のδ18Opの値は流域の農地・宅地の面積割合とともに高くなった。また,流域の岩石のδ18Op値が高いと河川のそれも高くなる傾向にあった。中山間地域河川においては先行降雨指標が高い観測日ほど河川のδ18Op値が低くなり,また,土地利用の異なる支流間でδ18Op値の差が小さくなる傾向があった。このことは,出水時,上流の森林域から下流河川に向けてリン酸が多量に流入し,支流間のδ18Op値が均一化されることを示唆する。以上,δ18Opを用いた解析から,中山間地域河川のリン酸の流出には流域の基岩の種類と人為的な土地利用が影響することを示唆した。さらに,出水時は上流の森林域の影響が強くなる可能性があることを示した。
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水文・水資源学会誌
巻: 31 ページ: 印刷中