研究課題
森林火災から発生する揮発性有機化合物(VOC)は,その地域の環境汚染や気候変動に多大な影響を与えるとされ,その化学特性評価や予測モデルの構築は,大気化学における近年の重要な課題となっている.平成29年度は,前年度に参加した国際プロジェクトFIREX*で得られたVOCデータを解析した.ここでは,高分解能プロトン移動反応質量分析法と自身が開発したVOCの網羅的定量法を組み合わせ,北米西部に生息する種々の植物が燃焼した際に一次放出される550種類以上のVOCを同定・定量し,VOCの全発生量の90%以上を説明することに成功した.さらにこのデータを用いて数値解析した結果,燃焼中の瞬間的なVOC発生量に関して以下の新規の事象を発見した:1.北米西部に生息する植物の燃焼に由来するVOCの瞬間的発生量は,2つのマススペクトルの組み合わせで,85%以上の精度で評価できる.2.本マススペクトルを構成するVOCの種類とその相対量は,北米西部の植物の種類に依存しない.さらに,本マススペクトルにはそれぞれ,植物の葉や茎,幹,枝等を構成する高分子(セルロースやヘミセルロース,リグニンなど)の高温熱分解または低温熱分解で発生するVOCが主に含まれる.3.有炎燃焼を主な期限とするCO2の瞬間的な発生量は,VOCの瞬間的発生量と相関しない.ゆえに,CO2とCOから決定づけられる燃焼効率MCE(= ΔCO2/(ΔCO2+ΔCO))は本来,VOC発生量の評価や予測に適さない.本結果より,VOCの発生量を評価・予測するにあたり,植物の分解・燃焼温度が,これまで使われてきたMCEに代わるパラメーターになると示唆された.*FIREX:米国立海洋大気庁地球システム科学研究所化学領域が主導する国際研究機関連携型プロジェクト.北米西部に多発しているバイオマス燃焼の化学特性評価と気候変動への影響調査を目的としている.
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