温暖化に伴う森林生態系での土壌有機物分解反応をより深く理解するためには、土壌への直接的な温度の影響に加え、地上部植生からの新鮮有機物供給の影響も同時に評価する必要がある。本研究では室内培養実験を通し、1)セルロース添加の有無によって土壌呼吸速度の温度依存性(Q10)は有意に変化するのか? 2)セルロースの添加は既存の土壌有機物分解を促進(プライミング効果)するのか? 3)プライミング効果による土壌有機物分解量は温度環境とどのような関係を持つのか?を明らかにすることを目的としている。昨年度は冷温帯落葉広葉樹林下に分布する黒色土を供試土壌としてプライミング効果の有無および程度について異なる温度環境で評価した。その結果、実験を行うにあたりいくつか改善が必要であることが明らかとなった。よって、それらの問題点を見直し、改めて土壌炭素分解反応におけるプライミング効果と温度環境(15℃、25℃、35℃)の関係について黒色土を用いて再評価をおこなった。その結果、約2ヶ月間の培養期間では初めの1ヶ月間は温度条件間で大きな差は認められなかったものの、その後の1ヶ月間では温度条件が低いほどプライミング効果による土壌炭素分解量の積算値が高くなることが明らかとなった。また、温度依存性(Q10)はセルロース添加の有無によって有意な差は認められなかった。ただし、セルロース添加区ではQ10の平均値がより低い傾向であった。微生物バイオマス量を比較したところ、温度環境が高いほど、また、セルロースを添加した処理区ほど多い傾向が認められたが、プライミング効果の程度との間に明瞭な関係は認められなかった。これは黒色土で生じるプライミング効果が微生物の量ではなく質に依存している可能性を示すものと考えられる。
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