研究課題/領域番号 |
15K16119
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
後藤 大輔 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (10626386)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大気中アルゴン濃度 / 海洋貯熱量 / 炭素循環 / 全球炭素収支 |
研究実績の概要 |
199年代以降、大気中O2・CO2濃度変動観測に基づく海洋と陸上生物圏によるCO2吸収量の定量評価が行なわれているが、海洋の貯熱量変化に伴う海洋からのO2放出量の補正が難しく、それがCO2吸収量推定の大きな誤差要因となっている。本研究では、海洋の貯熱量変化、およびそれに起因する海洋からのO2放出量を評価し、大気中CO2・O2濃度観測に基づくCO2吸収量推定の高精度化に貢献することを目的として、海洋の貯熱量の変化にのみ起因して変動する大気中Ar濃度の計測システムを新たに開発に取り組んでいる。これを用いて、これまで採取・保管されてきた南極の大気試料を分析することで、これまでに報告例のない長期間の大気中Ar濃度変動の実態を明らかにし、海洋の貯熱量変化、およびそれに伴う海洋からのO2放出量の評価が可能になることが期待される。平成27年度においては、以下の2点を実施した。 1. Isoprime Ltd.製質量分析計Isoprime100を検出器として、大気中Ar濃度計測法を確立するため、装置の試料導入部を改造し、分析試験を開始した。その際、先行研究を参考にし、一定流量で定常的に流している大気試料の一部を、内径25μmの細管を通じて分析計に導入する構成とした。さらに、その細管周辺のわずかな温度変化で分析計の出力が不安定になることが見出されたため、細管の保温のため、細管を一本のデカボンチューブで保護するとともに、そのデカボンチューブを断熱材で覆った。現在、テスト試料を用いて最適な分析条件を決定するため、試験中である。 2. 将来的に、本システムを用いた現場での連続観測実施も想定している。大気試料は分析計導入前に除湿する必要があるため、スターリング冷却機を利用した大気除湿システムを構築した。大気試料の適切な分析条件が整い次第、このシステムを用いた連続観測試験を開始する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
システムの試料導入部改造の過程で、分析装置内で分析試料をイオン化するための電子を発生させるフィラメントが破断した。このフィラメントの交換作業時、フィラメントの取り付け位置の微調整のために取り外す必要のある一部の部品が破損していることが判明し、フィラメントを適切な位置に取り付け調整することが不可能であった。質量分析において、フィラメントが適切な位置に取り付けられなければ適切な分析を行うことはできない。この件について当該質量分析計を購入した代理店の技術者に相談した結果、破損した部品を含めた複数のパーツを交換する必要があることが判明したが、必要な部品をすぐに入手できる状態ではなかったため、現時点では応急的な対処を施して、当面の使用には差し支えない状態になっている。しかし、この不具合の発見と対応に時間を要し、その間のシステム開発・試験作業が中断された。このため、当初はすでに試験がほぼ完了し、実際の試料分析を開始しているはずであったが、現時点でまだ実試料を分析できる状態になく、作業はやや遅れている。今後は、交換が必要な部品の調達を急ぐと同時に、現状で可能な試験を実施し、実試料分析開始に向けて作業を進める。また、交換部品が調達され次第交換し、実試料の分析を開始する。
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今後の研究の推進方策 |
交換の必要が生じた分析計の部品を至急調達し、交換するとともに、テスト試料を用いて大気中Ar濃度計測システムの動作試験・測定精度確認を継続し、試料の流量・導入圧、分析計の校正頻度などの最適条件を決定する。すべての確認試験が完了した後に、1995年以降から南極で採取され、国立極地研究所に保管されている過去約20年分の大気試料のAr濃度分析に着手し、平成28年度中盤~終盤の全試料分析完了を目指す。得られた分析データは、南極で観測しているCO2およびO2濃度とともにデータベース化し、物理法則に基づいた海洋貯熱量変動の推定、およびそれに伴う海洋からのO2放出量評価に向けた解析に着手する。 さらに、同システムを利用し、実験室外の空気を分析システムに導入して大気中Ar濃度連続観測試験を実施する。本試験は、南極で採取された試料の分析の合間に断続的に開始し、南極の大気試料分析が完了した後、本格的な試験観測を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実際に購入する際に、当初見積額から金額が変わったものがあり、計画していた金額との差額が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度配分額と合わせて、分析計の補用品購入費用として使用する。
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