湿性除去過程は、大気エアロゾルの沈着量とその大気中の存在量を支配するにも関わらず、そのモデル再現性は極めて低い。湿性除去過程は、雲核形成に伴う雲内除去(rainout)と雨滴との衝突併合による雲底下除去(washout)に大別されるが、通常の観測では、rainoutとwashoutを区別して測定することが出来ない。そこで本研究では、エアロゾルと降水の物理観測と化学観測を併用することで、信頼度の高いrainout/washout寄与率を導出する。そして、rainoutとwashoutのモデル再現性を個別に評価することにより湿性除去過程のモデル精度を大幅に向上し、また、エアロゾルの湿性除去過程を支配する要因を明らかにすることが目的である。
それに対して本年度は、降水の粒径分布を高時間分解能で測定できるディスドロメーターと降水0.5 mm毎に化学成分を測定できる酸性雨測定装置(AR-107SNA)を気象研究所の露場に設置し、通年観測を行った。そして気象研で常時観測しているエアロゾルの化学組成と粒径分布、二酸化硫黄濃度、及び気象観測結果を併用して解析を行った。その結果、硫黄酸化物に対してはwashoutの寄与率はどれだけ大きく見積もっても20%程度と、先行研究(観測、モデル共に50%程度)に比べて低かった。この成果を、2016年度気象学会春季大会でポスター発表し、また国際誌投稿用の原稿を執筆中である。
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