DNA損傷トレランスは細胞の損傷ストレス耐性に寄与する機構であるが、DNA複製をターゲットとした抗癌剤の効果に対して抑制的に働いている可能性がある。本研究課題ではDNA損傷トレランス機構をターゲットとした分子標的治療の可能性を示すことを目的として、DNA損傷トレランスに関連する分子の一つであるREV7の生理的機能の解析を行った。 昨年度までに、REV7を高発現する胎児性癌細胞株(NEC8)を用いて、①REV7ノックダウン細胞やREV7ノックアウト細胞は細胞増殖が低下し、シスプラチンに対する感受性が亢進すること、②シスプラチン耐性細胞に対してもREV7をノックアウトすることでシスプラチンに対して高感受性を示すことを明らかにしてきた。 本年度は主にこれまでに得られたデータを補完する実験を行った。まず、REV7ノックダウン細胞はシスプラチンだけでなくカルボプラチンなど他の抗癌剤に対しても高感受性を示すことがわかった。さらに、REV7欠損細胞によるシスプラチン感受性の亢進はカフェインの添加によりさらに亢進することがわかった。このことは、REV7欠損によるシスプラチン感受性の亢進はREV7のDNA損傷トレランス機能の破綻によるものであることを示唆している。 以上のことから、REV7の機能抑制はシスプラチンの抗腫瘍活性を高めるだけでなく、シスプラチン抵抗性腫瘍に対して有効であり、DNA損傷トレランスが分子標的として有用であることが示唆された。
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