研究課題/領域番号 |
15K16129
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
辻 英樹 国立研究開発法人国立環境研究所, 福島支部, 研究員 (50719599)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / ダム湖 / 溶存態 / プランクトン / 底質 |
研究実績の概要 |
2015年度に引き続き、福島県横川ダムの上流・中流・下流において、2016年5月・8月・11月・2017年1月に水(表層・底層)およびプランクトンの採取を行い、放射性Cs濃度やプランクトン種の地点分布および季節変動について確認を行った。その結果、水については夏の中流底層部において最も溶存態Cs137濃度が高くなることがわかった。プランクトンのCs137濃度については顕著な周期的変動傾向は確認されなかった。また、同ダム湖のプランクトンによる放射性Cs濃縮係数の評価を行った結果、既往文献の淡水プランクトンの濃縮係数と同レベル(10^4 L/kg)であり、魚類とほぼ同じオーダーであったことが確認された。 福島県内の3箇所のダム(松ヶ房ダム・真野ダム・横川ダム)において、それぞれ上流・中流・下流で複数本の鉛直不撹乱底質の採集を行い、バルクCs濃度・含水率・強熱減量等の性状測定を行った。その結果、原発事故後の初期堆積を示す、底質中のCs137濃度のピークは年々下部へ進行していることが確認された。また、底質を用いた模擬湖水試験の結果、現場湖水より高濃度のCs137が溶出する可能性があり、特に湖底の温度が高いほど溶出濃度は高くなることがわかった。 ダムの流入・流出水中の放射性Cs濃度および濁度・流量のデータを用いて、松ヶ房ダム・横川ダムにおける形態別の放射性Cs収支の算定を行った。その結果、いずれのダムにおいても粒子態のCs137のうち約90%が湖内に貯留されたことがわかった。特に2015年は大規模な出水イベントにより放流水中のCs137量が比較的多かったことから、適切なダムの放流操作によって下流へのCs負荷を低減させる可能性があることがわかった。また、溶存態Csは流入・流出水でほとんど増減していないことから、先述の底質からの溶出による負荷量は収支にほとんど影響しないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の遂行に必要なサンプルを概ね採取し、所定の分析を行うことができた。プランクトン態の放射性Cs動態に季節変動性が見られなかったこと、放射性Cs濃度が魚類とほぼ同程度であったため移行速度の算定が困難であることは当初の想定を外れるものであったが、一方でダム管理法が放射性Cs収支に影響を与えることを示唆する結果が得られたため、当初の想定通り、放流操作の重要性について議論を行うことができると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
経年変化および季節変動性の確認のため、引き続き現場調査によって水・底質・プランクトンのサンプリングを行い、各性状の分析を随時進めていく。また、底質からのCs溶出の温度・水質依存性等を考慮し、例えば夏場に貯水率が低下した時において放射性Cs溶出リスクがどれだけ増加するかを含めて、ダム放流操作が下流負荷に与える影響等について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年は、2015年度に採取した未分析・未処理サンプルの処理を進めたが、新施設(福島支部)の開設に伴う実験機器等の立ち上げに時間を要したことから、2016年度までに採取した底質・プランクトン等のサンプルの前処理および分析を完了することができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
水・プランクトン・底質等のサンプル処理のために必要な消耗品の購入および分析にかかる費用として使用する。
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