福島県の3つのダム(松ヶ房ダム、真野ダム、横川ダム)において、引き続き流入水および放流水の溶存態・懸濁態のCs137濃度および濁度・水位を測定し、ダム湖における1年間の形態別Cs137収支の算定を行った。その結果、2015年からの3年間で溶存態のCs137濃度は低下傾向にあるものの、流入水に比べて放流水に含まれる溶存態Cs137濃度の低下が鈍く、環境半減期が長くなるような傾向が見られた。したがって、ダム湖の底質が溶存態Cs137のソースとして機能している可能性があることがわかった。 次に横川ダムの底質を用いて、NH4濃度を調整し、他の主要イオン濃度を現場湖水に近い条件とした「模擬湖水」を加えた振盪溶出試験を行った。その結果、添加するNH4濃度が高く、温度が高い条件ほど溶出するCs137が多くなることが確認され、現場で想定される最大のNH4濃度(約20mg/L:間隙水の最大NH4濃度に相当)に対する溶出ポテンシャルは、25℃条件下で湖水(最大0.3Bq/L)に対して約8倍(2.3Bq/L)であり、十分ソースとして機能することが確認された。 以上より、今後のダム湖受益地環境での農作物や水生生物等へのCs137移行を考慮すると、特にダム放流水の継続的なモニタリングによって長期的な溶存態Cs137濃度の推移を観測し続けることが、下流部での溶存態Cs137濃度を予測するにあたり重要であることがわかった。また、底質からのCs137溶出を抑えるためには、湖底温度を上げない、あるいは好気的環境を保ちNH4濃度を上げない等の対策が必要であり、合わせて底質の浚渫の有効性とコスト等について今後検討が必要であることがわかった。
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