研究課題/領域番号 |
15K16130
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
泉 雄大 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 博士研究員 (20595772)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DNA損傷応答 / ヒストン / 円二色性 / 翻訳後修飾 / 放射線生物学 / 放射光 |
研究実績の概要 |
ヒストンタンパク質は、DNA損傷修復過程で重要な役割を果たすことが知られている。DNA損傷に伴うヒストンの構造変化を調査するために、平成27年度は、X線を照射してDNAを損傷させたヒトがん細胞(HeLa細胞)から、ヒストンタンパク質H2A-H2Bを抽出し、円二色性スペクトル測定によりその二次構造の分析を行った。その結果、非照射細胞から抽出した場合に比べて、H2A-H2Bのα-へリックス(らせん)構造の割合が増加していることを発見した。H2A-H2Bに直接X線を照射した場合には、逆に、α-へリックス構造の減少が見られた。これらのことから、X線照射細胞から抽出したH2A-H2Bで見られた構造変化は、X線照射によって生じる直接、間接効果によってH2A-H2Bがダメージを受けたためではなく、DNA損傷応答の結果、生じたものであると結論した。また、X線照射後、ヒストン抽出を行うまでの時間を30分から24時間まで変化させても、H2A-H2Bはα-へリックスが増加した「異常な」構造のまま細胞中に存在することを確認した。H2A-H2Bを「異常な」構造に変化させるメカニズム、あるいは、その役割は現時点で明らかになっていないが、放射線被ばくによる生命の危機を避けるための機能の一部になっているのではないかと考えられる。 平成27年度の成果として、査読付き論文1報が既に掲載されている。その続報の査読が現在行われており、近日中に掲載されるものと期待される。既に掲載された論文に関しては、プレスリリースを行い、日刊工業新聞に掲載された。加えて、本研究のように放射線生物学研究に円二色性スペクトル測定を利用するための解説記事(査読付き)を執筆した。また、国際学会において、1件の招待講演と、1件のポスター発表を行った。ポスター発表に関して、Young Investigator Awardを受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の実施計画を概ね完了することができた。また、現在査読中で掲載に至っていない論文が残っているものの、日刊工業新聞での記事の掲載、国際学会における招待講演、Young Investigator Awardの受賞など、期待以上の成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、H2A-H2Bと共にヌクレオソームを構成するヒストンタンパク質H3-H4に関して同様の実験を行う予定である。また、薬剤等の添加により酵素の機能を制御した細胞からH2A-H2Bを抽出、円二色性スペクトル測定を行うことで、「異常な」構造が形成されるメカニズムの調査を行う。これと同時に、DNA損傷修復過程などで生じることが知られている被修飾ヒストンなどを合成し、その構造を調査、比較することで、「異常な」構造形成の原因を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、実験試料作製に用いる試薬等の購入費用に予算の大半を割く計画であった。当初の想定よりも実験が順調に進んだため、結果として、試料作製の機会が減り、その購入費用が余ることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者の研究機関移動に伴い、現在必要な実験機器の一部が不足している。したがって、平成28年度に繰り越す当該費用をこれらの購入費用として用いる予定である。 また、平成28年度分の助成金は、平成27年度と同様に、試料の作製のための試薬購入費用、成果発表のための旅費、論文投稿費用、オープンアクセスの費用として使用する予定である。
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備考 |
受賞:Young Investigator Award in 14th International Workshop on Radiation Damage to DNA
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