研究課題/領域番号 |
15K16132
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水川 葉月 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (60612661)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ネコ / 有機ハロゲン化合物 / 代謝能 / 肝ミクロソーム / 甲状腺機能亢進症 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、社会的関心の高いペット動物の化学物質汚染と健康リスクに焦点を当て、とくにネコ体内に残留する有機ハロゲン代謝物の体内レベルや体内動態、代謝排泄能の解明を目的とし、甲状腺機能障害に及ぼす影響の検証を試みる。 本年度は、ハウスダストからの暴露寄与が大きいポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)の体内変化を明らかにするために、実験動物として飼育されているネコにこれらを投与してin vivoでの動態試験を開始した。現在までに、飼養期間の半分が経過し、経時的に採血・糞尿を採取している。これらの試料は順次化学分析を実施し、PBDEおよび水酸化代謝物(OH-PBDEs)、甲状腺ホルモン量などを計測後、カイネティックモデルを構築する予定である。 また、液体クロマトグラフ・質量分析計(LC-MS/MS)を用いたOH-PBDEsの分析法を立ち上げ、血清中のOH-PBDEs濃度分析が可能となった。今後は、本法を用いて、ネコ血清の分析を実施する。 さらに、ポリ塩化部フェニル(PCBs)をネコに投与し、体内動態や代謝排泄能を明らかにするため経時採血したところ、血清中OH-PCBs濃度は低塩素化体の残留が顕著であり、同条件で実施したイヌのin vivo試験と比較した結果、異性体の残留パターンや体内動態にイヌとネコで種差が観察された。また、代謝酵素活性および遺伝子解析の結果、PCBs暴露によりEROD、MROD、PROD活性は上昇するものの、第2相抱合酵素(UGTやSULT)活性は変化せず、PCBs暴露による抱合酵素活性への影響もみられなかった。また、CYP1A1およびCYP1A2遺伝子の発現量の上昇も認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的であるネコを用いたin vivo投与試験については計画通り実施を開始し、順調に試料採取も進んでいる。 有機ハロゲン化合物の体内動態や代謝排泄能の解明に関しては、PCBsの生体内動態および代謝機序の一端を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
in vivo投与試験後のネコの血液、肝臓、胆汁、尿中の水酸化代謝物や抱合体化物を分析し、親化合物との関係を解析して代謝能力を検証し、PBDEsの代謝排泄能を評価する。PBDEsの抱合体化物は、蛍光検出器や高速液体クロマトグラフィー・質量分析計(HPLC-MS)を用いて分析する。ヒト尿中からPBDEsの代謝物として考えられるブロモフェノール抱合体(グルクロン酸抱合体、硫酸抱合体)を分析した研究が報告されており、ペットの組織中抱合体化物の分析には既報を適用する。さらに、in vivo試験により得られたネコの肝臓を供試して第I相、第II相反応に関わる薬物代謝酵素(CYPs)や抱合酵素(UDP-GT、GST、SULT)の活性測定や遺伝子を抽出・クローニングして配列を決定し、代謝機構を解明するとともに、甲状腺機能撹乱メカニズムの解明とリスク評価のための科学的根拠を提示する。酵素活性は薬物代謝酵素のアッセイ法として公知のAROD法や、抱合酵素のUDPGT、GST活性測定キット(UGT Glo assayやGST assay kit)を用いて算出する。 OH-PCBsやOH-PBDEsは、生体内で甲状腺ホルモン輸送タンパク(TTR)に結合し残留している。ネコにおいてOH-PCBsの残留組成が他の陸棲哺乳類と異なることから、第I相・第II相代謝能のみならず、甲状腺ホルモン輸送タンパクへの結合にも種差があると考えられる。そこで、ネコおよび実験動物(マウスやラット、イヌ)の肝臓組織を用いて、甲状腺ホルモン輸送タンパクとの競合結合試験を行い、結合能を生物種差によって評価する。
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備考 |
American Chemical Society(ACS)のNEWSでHot topicに選出(ACS News Service Weekly PressPac: January 06, 2016) 「Fish-flavored cat food could contribute to feline hyperthyroidism」
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