研究実績の概要 |
メチル水銀は強力な神経毒性を有し、脳に対して選択的にダメージを与える。しかしながら、メチル水銀が示す毒性発現機構は未だほとんど解明されていない。本研究は、メチル水銀の示す脳特異的毒性発現機構におけるCH25H(コレステロール25水酸化酵素)の役割を検討するものである。当該年度は、メチル水銀曝露によって発現レベルが上昇する遺伝子であるCH25Hの発現変動と脳内での発現特異性の検討(1)、ならびに神経細胞での発現レベルの検討を行った(2)。 (1)近交系マウスC57BL/6に25mg/kgbw(as Hg)の塩化メチル水銀を皮下投与し、1,3,5,7日目にそれぞれ解剖した。脳組織、肝臓および腎臓でのCH25HのmRNA発現レベルを確認したところ、1日目に大脳および小脳で非投与群に比べて10倍程度発現レベルが上昇し、3日目に2倍まで低下後、5日目および7日目に再び発現レベルが10倍程度まで上昇した。投与量依存性についても確認し、10, 15, 20, 25mg/kgbw(as Hg)の塩化メチル水銀を皮下投与し、発現をみたところ、投与量依存的に発現レベルが上昇した。肝臓での発現は顕著でなかった一方で、腎臓でも発現レベルの上昇がみられた。しかしながら、メチル水銀の蓄積量から考えると、脳での発現上昇がより顕著であった。さらに脳内での発現特異性について、in situ ハイブリダイゼーションと免疫染色による2重染色を実施したところ、GFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)発現細胞でCH25Hの発現が重なる一方で、Iba1(Ionized calcium binding adaptor molecule 1)発現細胞との重複は確認されなかった。以上の結果から、メチル水銀曝露によってアストロサイトでCH25Hの発現がみられることが明らかになった。(2)細胞の検討では、神経幹細胞であるC17.2およびミクログリア細胞のBV2を用いて、メチル水銀の添加後CH25Hの発現を確認した。細胞生存率が60%程度になるとCH25Hの発現上昇が顕著であり、特にC17.2でより発現上昇がみられた。
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