メチル水銀は、強力な神経毒性を有し、脳に対して選択的なダメージを与える。本研究では、メチル水銀曝露によって脳特異的に発現が上昇するCH25H(コレステロール25水酸化酵素)の役割を検討し、メチル水銀が示す毒性発現機構の一端を明らかにすることを目指している。前年度までの検討によって、脳内のアストロサイト特異的にCH25Hが発現することを見出している。当該年度は、メチル水銀の曝露による脳内のアストロサイト特異的なCH25Hの発現について、3種類のマウス神経細胞(アストロサイト(C8-D1A細胞)、神経前駆細胞(C17.2細胞)、ミクログリア(BV2細胞))を用いて、その発現を比較するとともに、CH25HのsiRNAを用いたノックダウン試験およびCH25Hの代謝産物である25-水酸化コレステロールの前処理によるメチル水銀感受性を評価した。その結果、CH25Hの代謝産物である25-水酸化コレステロールの前処理では、C17.2細胞、ミクログリアおよびアストロサイトにおいて顕著な回復効果は確認できなかったものの、CH25HのsiRNAを用いたノックダウン試験により、もっともノックダウン効率の良いsiRNAを処理した場合において、3種類(C8-D1A細胞、C17.2細胞、BV2細胞)のすべてマウス神経細胞でメチル水銀処理によって高感受性を示した。以上の結果から、メチル水銀によって誘導されるCH25Hは、メチル水銀毒性に対して防御的に働いてる可能性が推察された。
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