研究課題
本研究では現在最も深刻な大気汚染物質である対流圏オゾンが樹木のCO2固定に与える影響に関するプロセスベースのモデリングを目的としている。初年度の平成27年度は、東京農工大学フィールドミュージアム多摩丘陵(東京都八王子市)のオゾン暴露チャンバーを用いたオゾン暴露実験を行った。日本の代表的な落葉広葉樹であり、多くの研究実績があるブナの苗木をモデル植物として、ベースとなるモデルを構築するために、葉における光合成速度の測定を経時的に行った。さらに、樹冠内の着葉位置の違いに伴うオゾン感受性(オゾンの悪影響の受けやすさ)を明らかにするために、樹冠上部と下部の葉のそれぞれについて光合成速度の測定を行った。その結果、樹冠上部の葉においてオゾンによる光合成速度の低下が顕著であること、光合成速度の主な低下原因は気孔閉鎖ではなく、葉緑体における生化学的な光合成活性の低下であることが明らかになった。特に葉緑体ストロマにおいてCO2の固定反応を触媒する酵素であるRubiscoの活性を示す最大カルボキシレーション速度の低下は明確であり、モデリングにおけるキーファクターとなる事が考えられた。実験で得られたオゾンによる光合成速度の低下応答を取り扱うモデルとして、大気-土壌-植生1次元多層モデルSOLVEGの導入を行った。本モデルは群落生産だけでなく、複雑な大気-陸面間の相互作用をシミュレートできるモデルであり、本研究課題のみならずより大きなスケールのモデリングに発展することが可能なモデルとして用いることとした。本年度の成果の一部は国内および国際学会で発表し高い評価を得た。
2: おおむね順調に進展している
今年度に行われたブナ苗に対するオゾン暴露実験自体は大きなトラブルもなく順調に進行した。そのため、葉の光合成速度に関するデータ採取は予定通り行われ、モデリングの基礎の構築に明確な進展が見られた。一方で、光合成に関わる酵素活性や物質含量の測定に関しては一部遅れが生じた。初年度に得られた研究成果のいくつかは国内外の学会において口頭・ポスター発表も行い、国際学術誌への論文投稿も行ったことから、全体としては、「研究はおおむね順調に進展している」と評価した。
初年度はおおむね計画通りに研究が進んだため、基本的に当初の計画通り、次のオゾン暴露実験を行う。供試樹木としてはブナに加えて、同じ落葉広葉樹のコナラと常緑広葉樹のシラカシ、スダジイおよびコジイを予定している。また、初年度に得られたオゾンに対する光合成応答を補完するために、過去の文献の再解析も行う予定である。初年度に得られた成果に関しては、さらなる学会発表を行うと共に論文投稿についても積極的に行っていきたいと考えている。
初年度のブナを用いた実験を学会等で報告した際に、ブナに対するオゾンのリスク評価を行う際は、日本海側や太平洋側といったブナの生息地域に伴う遺伝的な違いがオゾン感受性にどのように影響するのかについての知見が必要である事を指摘された。初年度の実験が大きなトラブルもなく順調に進行したため、次年度には樹種による違いだけでなく、ブナについては樹種内の遺伝的な違いにも着目した調査を行う事とした。その為に次年度使用額が生じた。
日本側産のブナ苗とその栽培に必要なポットおよび土壌を購入する。また、葉の光合成応答や成長調査を行うための消耗品を購入する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件)
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