研究課題
本研究では現在最も深刻な大気汚染物質である対流圏オゾンが樹木のCO2固定に与える影響に関するプロセスベースのモデリングを目的としている。ブナ苗をモデル植物として行われた初年度のオゾン暴露実験が大きなトラブルもなく順調に進行した為、2年目にあたる平成28年度は当初の計画通り、オゾン感受性が異なると考えられる複数の樹種を対象としたオゾン暴露実験を、東京農工大学フィールドミュージアム多摩丘陵(東京都八王子市)のオゾン暴露チャンバーを用いて行った。供試樹木としてはブナに加えて、同じ落葉広葉樹のコナラと常緑広葉樹のシラカシ、スダジイおよびコジイを用いた。さらにブナに関しては遺伝的な違いが認められている日本海側と太平洋側の二つの産地の苗木を用いた。本実験は最終年度の10月まで継続予定で、光合成速度などの主な計測は最終年度に行う予定である。北海道大学の開放系オゾン暴露設備において得られた葉における光合成の生化学的活性と窒素含量の解析より、光合成における窒素利用効率の低下がオゾン影響の主要因であることが明らかになった。実験で得られたオゾンによる光合成速度の低下応答を取り扱うモデルとして、大気-土壌-植生1次元多層モデルSOLVEGの導入を昨年度に行った。今年度は過去に研究代表者が群落光合成に対するオゾンの影響を推定した研究(Watanabe et al. 2014, ENPOL)のデータセットをSOLVEGによって再解析した。その結果、過去の推定結果を十分に再現できることが確認された。本年度の成果の一部は国内および国際学会で発表し高い評価を得た。
2: おおむね順調に進展している
今年度に行われたオゾン暴露実験に関しては、実験の開始時期に制御コンピューターが故障してしまい、修理に時間を要した。そのためオゾン暴露の開始が7月になってしまい、十分な期間のオゾン暴露ができなかった。そこで当初の予定を変更し、葉の光合成速度などのデータ採取は最終年度に行う事とした。一方で大気-土壌-植生1次元多層モデルSOLVEGによる解析は順調に進み、最終年度におけるデータの採取が終了した後に、速やかに得られた結果の解析が行える状況にまで到達することができた。初年度および今年度に得られた研究成果のいくつかは国内外の学会において口頭・ポスター発表も行い、国際学術誌への論文投稿も行った。オゾン暴露実験において遅れが生じているが、その他の部分が順調に進行したことから、全体としては、「研究はおおむね順調に進展している」と評価した。
最終年度は2年目に開始した5樹種のオゾン暴露実験において、光合成および呼吸に対するオゾンの影響を樹種によるオゾン感受性の違いも考慮して明らかにする。一般に樹木の生理生態学的特性は当年のオゾン暴露だけでなく前年度に暴露されたオゾンの影響も受ける。その為、前年のオゾンの影響が顕著と考えられる、出葉してから間もない時期についても測定を行う。測定にあたっては、特に光合成に関わる各項目のオゾン吸収量に対する量的応答を明らかにする。これらの結果に基づいて、植物生理学的プロセスを組み込んだ樹木のCO2固定能力に対するオゾンの影響推定モデルを構築する。さらに得られた推定モデルとそのパラメーターを大気-土壌-植生1次元多層モデルSOLVEGに導入し、葉群光合成速度に対するオゾンの影響推定を行う。研究実施期間に得られた内容に関して、学会発表および論文投稿を行い、積極的に成果公開を行っていきたい。
本年度に予定していたオゾン暴露実験の開始が、制御コンピューターの故障によって遅れたため、葉の光合成速度などのデータ採取を最終年度に行う事になった。その結果として、それらの計測に必要な経費を次年度に繰り越す必要性が生じた。
葉の光合成速度などのデータ採取に必要な消耗品(CO2ボンベ、試薬など)を購入する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
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