研究課題/領域番号 |
15K16142
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
花本 征也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (10727580)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ketoprofen / 太陽光 / 光分解 / 光分解産物 / 生成率 / 河川中動態 / 発端 / 濃度予測 |
研究実績の概要 |
水環境中における有害化学物質の管理が必要とされているが、近年、光分解により毒性が上昇する化学物質が多数報告されてきたため、光分解産物を化学物質の管理に含める必要があると考えられる。しかし、光分解産物に関する知見はほとんど明らかになっていない。そこでH27年度は、水環境中における化学物質の光分解産物の濃度予測手法の構築を目的とし、解熱鎮痛剤のketoprofenと、その光分解産物である3-ethylbenzophenone、3-(1-hydroxyethyl)benzophenone、3-acetylbenzophenone(以下KTP、EBP、HBP、ABPとする)を対象に、以下の内容で研究を実施した。 1、光分解によるKTPの分解経路と、光分解産物の生成率、量子収率、モル吸光係数の把握:モル吸光係数は分光光度計で測定し、他の因子は太陽光照射実験により把握した。 2、河川におけるKTPと光分解産物の動態の把握:2015年10月から2016年3月までの期間に、淀川水系の西高瀬川(4地点)で12回、桂川(5地点)で10回、日中に現地調査を実施した。また、両河川において、夜間に2回、現地調査を実施した。 3、河川流域における光分解産物の発端の把握:西高瀬川、桂川の流域にある下水処理場T、Kにおいて冬季に2回現地調査を実施した。 4、河川におけるKTPと光分解産物の生分解性、収着性、間接光分解性の把握:桂川と西高瀬川の河川水や底質を用いたラボ実験により把握した。 5、河川における光分解産物の濃度予測モデルの構築と検証:対象物質の物理・化学・生物学的性質、調査日の河川条件と気象条件、光分解産物の発端におけるKTPの負荷量を用いて、西高瀬川、桂川、下水処理場T、Kにおいて光分解産物の濃度予測を行った。モデルによる推定濃度と、現地調査による実測濃度とを比較することで、モデルの検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、光分解によるKTPの分解経路が明らかになり、KTP→ABPの中間生成物として、標準品がなく濃度定量が困難な3-(1-hydroperoxyethyl)benzophenone(以下PBPとする)の存在が明らかとなった。また、光分解産物の生成率、量子収率、モル吸光係数が定量された。いずれの物質も生成率と光分解速度(量子収率とモル吸光係数の両方の影響を含む)にpH依存性が見られたが、純水と環境水とでは有意な差は確認されなかった。また、HBPはKTPのみを添加した溶液とHBPのみを添加した溶液で光分解速度が異なっており、今後要因の検討を行う予定である。 2、現地調査により、光分解産物は、河川と下水処理場の覆蓋のない系列の最初沈殿池、最終沈殿池で生成していることが明らかとなった。覆蓋のある系列や夜間の河川調査では光分解産物はほとんど検出されず、生成は太陽光によるものであることが示唆された。また、流入下水(最初沈殿池前)と生物反応槽流出水(最終沈殿池前)でも光分解産物はほとんど検出されなかったことから、モデルでは簡単のため、光分解産物の発端を生物反応槽流出水と設定した。 3、河川におけるKTPと光分解産物の生分解、収着、間接光分解はいずれも無視出来る程度であることが明らかとなった。 4、河川水、二次処理水、放流水において、EBP、HBP、ABPのモデル検証を行った。EBPは、河川水ではモデルによる推定濃度が現地調査による実測濃度の0.70倍~1.43倍の範囲内に、二次処理水と放流水では0.50倍~2.00倍の範囲内にあり、モデルにより水環境中濃度が精度高く推定できることが示された。しかし、HBPとABPはモデルの推定精度がまだ十分高くなく、その要因としては、光化学的性質に不明瞭な部分が残されている点やEBPに比べて水環境中濃度が低く分析の誤差が大きいと考えられる点が挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
1、生成率と光分解速度のpH依存性の定式化、HBPの光分解速度の単物質系と混合物質系での差異の要因解明、PBPの知見を収集するための実験系の立ち上げを行う。また、H28年度は夏季にも実験を実施し、紫外光の割合が高い夏季と低い冬季での生成率と量子収率の差異を把握する。 2、H27年度は、10月~3月にかけて西高瀬川と桂川において現地調査を実施した。H28年度は、夏季に河川調査を実施し、太陽光強度や紫外光割合が増大したときの水環境中動態の把握とモデル適用性の検討を行う。また、山科川や淀川でも現地調査を実施し、異なる河川へのモデル適用性の検討も行う。 3、下水処理場内の調査は、H27年度は冬季に2回実施したが、H28年度は夏季も含めて繰り返し実施する。また、下水処理場内でのモデル推定精度は河川に比べて低かった。再生水のように下水処理水を直接利用するケースでは、下水処理場内での生成がより重要となるため、最終沈殿池での水深方向の濃度分布や、活性汚泥の沈降に伴う光透過性の変化について検討を行い、モデルを改良する。また、これまで対象とした下水処理場では塩素もしくはオゾンで消毒を行っていたが、海外の下水処理場や再生水施設ではUV消毒が適用されている場合も多いため、UV消毒での光分海産物の生成についてもラボ実験と現地調査による検討を行い、モデルに組み込む。 4、構築されたモデルの他の光分解産物への適用性を検討する。標準品が存在するdiclofenac(以下DCFとする)の光分解産物である8-chlorocarbazole-1-acetic acidを対象に、現地調査、ラボ実験、モデル検証を行い、必要に応じてモデルの改良を行う。 5、KTPとDCFの光分解産物に対して、発光細菌を用いた生態毒性試験を行い、モデル推定濃度と比較することで、淀川水系において、光分解産物を含めた化学物質の生態リスク初期評価を行う。
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