コンブ等の大型褐藻類は、海藻群落(藻場)を形成し、沿岸生態系保全及び水産資源確保において重要な役割を担っている。しかし、近年、藻場の減少・消滅が問題視されている。藻場の修復・保全には褐藻の生態系の理解が必要不可欠だが、配偶体の生殖生長メカニズムは不明な点が多い。本研究では、褐藻配偶体(S.japonica、♀)の生殖生長(卵形成)に伴う細胞内脂質の変化から、生殖生長に寄与する脂質成分を検討し、卵形成に伴いFucosterol(FS)、C14:0、C18:1n9、C18:3n3及びC20:3n3が減少することが分かった。FSが性ホルモン(シグナル分子)として生殖生長に関与すると考えられたため、培養液中の溶存FSによる生長撹乱作用を検討したが、細胞外のFSでは卵形成を誘発できなかった。 FSは、遊離型で存在しており、生殖生長に伴う形態変化は確認されなかった。遊離型ステロールはSphingomyelin(SM)を含むマイクロドメインに局在することが分かっており、褐藻からSM合成遺伝子の存在も確認されている。また、長鎖不飽和脂肪酸は、SM分解酵素を活性化させることが知られている。本研究におけるω3脂肪酸の減少は、SM分解のために代謝され、マイクロドメインからFSの解放に寄与していると考えられる。ω3脂肪酸を生長ホルモンへ代謝するシトクロムP450系酵素の存在も確認されている。さらに、褐藻雌配偶体は、生殖生長すると精子の放出及び誘導のための性フェロモンを放出することが知られているが、ω3脂肪酸は性フェロモンとしても代謝される。これは、本研究によるω3脂肪酸の減少の理由の一つと考えられる。C14:0及びC18:1n9は、TAG中に局在していることが分かり、TAG含有量も卵形成に伴い減少した。これは、細胞の形態変化におけるエネルギー代謝で消費されたと考えられる。
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