研究実績の概要 |
沿岸域の一部の底質は、石油成分由来の多環芳香族炭化水素(PAHs)によって汚染されている。本研究は、底生動物である海産ミミズの活動によるPAHs浄化のメカニズム解明に向け、海産ミミズと微生物との相互的作用に着目し実施している。これまで、海産ミミズと土着微生物との相乗的な作用によって、底質中に含まれるPAHs濃度が減衰することが明らかとなった。本年度は、最適な浄化温度を明らかにすることを目的とし、異なる温度条件下において50日間の浄化試験を実施し、底質の細菌数、海産ミミズの生残および成長、間隙水および底質のPAHs濃度を測定した。 試験終了時、15,20および25度のいずれの温度においても海産ミミズの生存は確認され、特に20および25度でバイオマスの増加が認められた。底質の微生物数は、いずれの温度においても海産ミミズを添加することで減少する傾向が認められたことから、土着微生物が海産ミミズのえさ資源としても重要であることが示唆された。PAHsの代謝や減衰に関与するとされる海産ミミズの薬物酵素遺伝子の発現量は、温度によって差は認められなかった。海産ミミズ添加群における底質から間隙水へのPAHsの溶出量は、15および25度に比べ、20度で最も高い傾向が認められた。これは、20度ではミミズの活動が活発になり、底質の攪拌効果などによって底質から間隙水へPAHsが溶出したことによると考えられた。50日の浄化期間では底質のPAHs濃度は処理区間で差は認められなかったものの、より長期間の浄化を20度で実施することで、底質のPAHs濃度も減衰すると推察された。
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