研究課題/領域番号 |
15K16146
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
佐藤根 大士 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (00583709)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 化学工学 / プロセス工学 / 粉粒体操作 / スラリー制御 / 水処理 / 環境技術 |
研究実績の概要 |
圧力応答性ポリマーは、側鎖の溶解度に圧力依存性を有し、周辺圧力に応じてポリマーの伸長状態が変化する。このようなポリマーを粒子表面に固定化することで、周辺圧力に依存して分散状態が変化する圧力応答性粒子の作製および、圧力応答性粒子の排水処理への応用を目的とした.本年度はまず、本研究の基盤となる圧力応答性粒子の作製について、ポリマーを固定化するコア粒子の選定を行うとともに、ポリマーの固定手法および圧力応答性粒子の安定性について検討を行った。 ポリマーについては水処理分野においての凝集剤として広く使用されており、幅広い分子量に対応可能かつ安価に入手可能なアニオン系ポリマーであるポリカルボン酸アンモニウムを選択した。コア粒子については、凝集後に容易に粒子が沈降するよう比較的密度が大きく、化学的に安定な物質が好ましいことから、アルミナ粒子を選択した。粒子表面への固定化については、ポリマーとコア粒子をイオン交換水と混合した後、ポリマーが電離状態を保ちかつ粒子表面が正に帯電するpH6.0に調整することで、ポリマーを静電的に粒子表面に吸着させた。その後、ポリマーが十分に粒子表面に吸着するのを待って、媒液中に残存した未吸着のポリマーを除去するため、媒液のみをイオン交換水と入れ替え、圧力応答性粒子を含むスラリーを調製した。調製したスラリーに装置の上限である400MPa の圧力を印加し、分散状態がどのように変化するかを観察した結果、圧力印加によりスラリー中の粒子が凝集・沈降し、透明な上澄み液を得ることができた。また、圧力印加により粒子表面に固定化したポリマーが脱離していないか確認するため、圧力印加後の上澄み液中の全有機炭素濃度を測定したところ、上澄み液中には有機炭素が検出されなかった。以上の結果から、圧力の印加でポリマーは脱着せず、非常に簡便な手法で安定性の高い圧力応答性粒子の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の主たる目的である、圧力応答性粒子を用いた安価・簡便・低環境負荷な水処理技術の確立のため、本年度は圧力応答性粒子の作製および、印加応答性粒子の安定性を明らかにすることを目的とした。 本年度行った研究により、アルミナ粒子・イオン交換水・ポリマーを混合し、ポリマーが電離状態を保ちかつ粒子表面がポリマーとは逆の電位に帯電するpHに調整することで、ポリマーを静電的に粒子表面に吸着させ、この粒子を含むスラリーに圧力を印可すると粒子が凝集・沈降・堆積したことから、圧力応答性粒子の作製に成功した。さらに、粒子表面に吸着したポリマーの安定性について検討するため、圧力印加後に得られた上澄み液中に含まれる全有機炭素量を測定した結果、上澄み液中には有機炭素成分は検出されなかった。このことから、圧力の印加は粒子表面のポリマーの吸着状態には影響を及ぼさず、圧力印加によるポリマーの脱離の恐れはないことが確認できた。以上の結果から、ポリマーをコア粒子に固定化するには、グラフト化等の複雑な処理は必ずしも必要ではなく、静電的な吸着だけで十分な安定性を確保でき、ケミカルフリーが達成できる可能性があることがわかった。 これらの結果より、本年度の目的としていた、圧力応答性ポリマーの種類および、ポリマーを固定化する粒子の選定、ポリマーの固定手法といった、研究の基盤となる条件およびケミカルフリーの達成についておおむね成功したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、作製した圧力応答性粒子の水処理技術への応用について検討を行うため、実プロセスを模擬したモデル排水の凝集処理試験を行う。また、処理対象粒子が圧力応答性粒子に吸着した状態で圧力印加を行うと、凝集剤としての効果が得られなくなる可能性もあるため、排水中微粒子の圧力応答性粒子への吸着メカニズム、微粒子が吸着した状態で圧力を印加した際の圧力応答性粒子の凝集挙動および、微粒子の脱着の有無について検討を行う。その際、できるだけ実排水への応用が可能なモデル排水を使用する。 圧力応答性粒子の作製に用いる試料は、昨年度使用したアルミナ粒子とポリカルボン酸アンモニウムの組み合わせとし、分子量の異なるポリマーを用いることで、幅広い条件を検討する。 実排水への適用実験については、鉱山排水のモデルとして幅広く使用されているカオリン粒子のスラリーをモデル排水とし、モデル排水に含まれるカオリン粒子が全て凝集・沈降・堆積する圧力応答性粒子の添加条件について検討することで、排水中微粒子の粒子濃度と、処理に必要な圧力応答性粒子との関係を定量化する。また、堆積層の充填率はその後のろ過プロセスに影響を及ぼす可能性があるため、高分子凝集剤により凝集したスラリーと比較を行う。高分子凝集剤添加と比較して遜色ない結果が得られない場合は、固定化するポリマーの分子量を変えて対応することで、解決できると考えられる。 また、実排水の処理を考えると、かならずしも排水中の粒子濃度が一定とは限らないため、過剰量の添加剤を使用することが考えられる。この場合、上澄み液中には圧力応答性粒子が残存することになる。この上澄み液の2次処理について、圧力印加のみで対応できるか確認するため,圧力応答性粒子を含む上澄み液に圧力を印加し、粒子が凝集するか、また長期間の処理でもポリマーが脱離せずケミカルフリーが達成できるか検討する。
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