研究課題
本申請課題は、大気中の微小粒子状物質による心臓や血管への影響とその作用メカニズムの解明を目的に、初年度においては心臓や血管の生理機能への影響を中心に解析した。具体的には、血圧・心拍・血管の弛緩・収縮への影響をマウス及びラット胸部大動脈を用い解析した。また本解析に用いた微小粒子状物質の種類は、酸化亜鉛ナノ粒子及び非晶質シリカナノ粒子である。これらは、化粧品や工業品などに含まれており、その使用料や製造量は年々増加し、様々な経路から自然界への放出・暴露が危惧される。初年度は、これらのナノ粒子が一定の曝露濃度を超えることで心臓や血管への影響を発現することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本解析では、まず酸化亜鉛ナノ粒子と非晶質シリカナノ粒子による血管の収縮作用について解析した。その結果、最大300ug/mLの曝露濃度においても、血管収縮は観察されなかった。次に、血管の弛緩作用について解析した。その結果、非晶質シリカナノ粒子のみに、血管の弛緩作用が観察され、これら作用は10ug/mLの曝露濃度を超えることで惹起されることが明らかとなった。血管の弛緩は、血圧低下の原因になることが知られており、非晶質シリカナノ粒子では心機能のみを評価することが困難である。そこで、心機能の評価は酸化亜鉛ナノ粒子のみについて評価した。また、臓器毒性などの炎症反応では、種々サイトカインが産生され、心筋細胞・血管内皮細胞に作用し血圧や血流量が調節される。これら反応は、正常な生理機能であるものの、化合物による心機能を評価する際に問題となる。そこで本解析では、血液生化学検査により肝毒性・腎毒性・心毒性の発現しない投与量を決定した。次に、臓器毒性の発現しない量の酸化亜鉛ナノ粒子をマウスに投与し、継時的な血圧の変化を解析した。その結果、24時間、48時間後に血圧の増加が観察された。以上より、大気中に存在する微小ナノ粒子は心機能や血管機能に影響することが明らかとなった。
最終年度は、非晶質シリカナノ粒子による血管弛緩反応の作用メカニズムと酸化亜鉛ナノ粒子による血圧増加のメカニズムの解明を推進する。前者においては、血管弛緩反応に関わるシグナル経路の特異的阻害剤を用いて作用メカニズムを解明する。具体的には、PI3Kシグナル、PGIシグナル、Ca2+シグナルの3経路について解析を進める。後者は、高血圧の原因である、血中のナトリウム、アルドステロン、レニン、アンジオテンシンへの影響を解析する。さらに、非晶質シリカナノ粒子及び酸化亜鉛ナノ粒子の曝露により血中で特異的に産生される物質を探索し、微小粒子状物質による影響を評価するためのバイオマーカーを同定する。
当初の想定以上に微小粒子状物質による影響が特異的な反応であったため、実験の再現性が容易に実現したため、次年度への繰越金が生じた。
当初の想定以上に様々な成果を得ることができたため、論文投稿・校正費または学会発表の為の旅費に使用。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件)
Toxicology Reports
巻: 2 ページ: 574-579