研究課題/領域番号 |
15K16150
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
乾 隆帝 山口大学, 創成科学研究科, 助教(特命) (20723844)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 汽水域 / 河川 / ハビタット / 魚類 / シミュレーション / 塩分 / 河床 / 保全 |
研究実績の概要 |
汽水域における水理特性と,河口域に形成されるハビタットの関連性や,それに応じた河口域生態系の差異については明らかにされていないため,河川の流域特性に応じた汽水域生態系の保全や自然再生を行うことができないのが現状である.そこで本研究では,西日本の1級水系の河川感汽水域において,河床変動および塩分変動シミュレーションの結果を用い,河川汽水域を類型化するとともに,河床変動および塩分変動特性が,魚類の出現パターンに与える影響を明らかにすることを目的とした.本研究で実施する河川汽水域の類型化は,河川汽水域における学術的な貢献のみならず,現場レベルの生態系保全・河川管理施策にも重要な知見となりうるものである. 平成28年度には,西日本の1級水系のうち27水系を対象にし,1. 魚類の出現パターンの解明を目的に,2016年6月時点での最新の河川水辺の国勢調査の魚類相データを用いて,周縁性魚類および汽水性ハゼ類のデータを抽出し,さらに汽水性ハゼ類については,先行研究を参考に,ハビタットタイプを区分し,礫タイプ,砂タイプ,泥タイプの3タイプのデータを用いた.次に,対象河川の周縁性魚類の種数,汽水性ハゼ類のうち礫タイプの種数,砂タイプの種数,泥タイプの種数のデータを用い,ユークリッド距離に基づくウォード法によるクラスター分析をおこなった.次に,2. クラスター分析で類型化されたグループごとに2河川を選択し,オブジェクト指向型数値流体モデル(Fantom3D)を用いて塩分変動シミュレーションを行った.計算期間は河川水辺の国勢調査の行われている前後14日とし,上流端には同時期の流量,下流端には同時期の潮位データを与えて計算を行い,全ての計算格子について14日の塩分の平均値を算出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
魚類の出現パターンの解析および塩分変動に関しては当初の予定以上に順調に進んでいる一方,河床変動計算に関しては平成29年度に持ち越される課題が出来たため,トータルとしてみておおむね順調という判断をしている.以下に結果のまとめを示す.1. 魚類の出現パターン:クラスター分析の結果,27河川は4つのグループに区分できることが明らかになった.うち,グループCおよびDの魚類の出現パターンは特徴的であり,グループDは塩分の影響が強く,かつ河床材料が多用で,グループCは塩分の影響が少ないことが示唆された.2. 塩分変動特性の解明:塩分変動シミュレーションは,吉井川,芦田川,松浦川,小瀬川,高津川,北川,佐波川および那賀川の8河川を選択しておこない,汽水域面積および汽水域における潮間帯から潮下帯浅所(T.P.-2m以上)の面積を集計した.これらの結果から,グループCについては,汽水域における潮間帯から潮下帯浅所の面積が他のグループに比べて小さいことが明らかになった.3. 魚類の出現パターンと環境変動の関係性:上記のシミュレーション結果のうち,グループ間で顕著な差がみられた「潮間帯から潮下帯浅所」における塩分変動特性のうち,汽水域面積および低塩分(0.01-5ppt)面積と,魚類の出現パターンについての関係性を検討した結果,汽水域の魚類の多様性には,周縁性魚類からみた場合は,汽水域浅所の面積がある程度以上大きいこと,汽水性ハゼ類からみた場合は,それに加え,低塩分エリアが存在することが影響を及ぼしている可能性が高いことが明らかになった.河床変動については,塩分変動の対象と同一河川である6河川を選択しておこない,細粒化(≦1)と粗粒化(>1)に区分した結果,粗粒化した面積は汽水域面積に比例する結果となり,本研究の計算条件下では河川ごとの特徴を見出すことができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,平成28年度に続き,河床変動シミュレーションおよび塩分変動シミュレーションをおこない,可能な限りシミュレーションをおこなう河川数を増やす.また,それと同時に,塩分変動および河床変動についての精度検証をおこなう.塩分変動および河床変動について特徴的な河川を抽出し,塩分については,汽水域上流部,中流部,下流部の3点(汽水域長が短い場合は2点)の底層に電気伝導度ロガーを2週間設置することにより測定する.河床については,計算結果から粗粒化,細粒化,変化なしと算出されたそれぞれの場所における河床材料を採集し,乾燥後,ふるいわけを行うことにより中央粒径を算出し,計算結果との照合する. また,魚類の出現パターンと塩分変動および河床変動の関係性についても,今年度おこなった魚類の出現パターンだけでなく,汽水性ハゼ類の魚類相や,周縁性魚類の種数等,より詳細な魚類の分布特性との関係性についての見当をおこなう.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の都合上,小額の残額が発生したため.
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次年度使用額の使用計画 |
当初から予定していた目的(旅費)に上乗せして使用する.
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