研究課題/領域番号 |
15K16151
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
手塚 公裕 日本大学, 工学部, 助教 (60624575)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 溜池 / 浮葉植物 / 光阻害 / 溶存酸素 / 貧酸素化 / 吹送流 / 生物多様性 / 水生植物相の貧弱化 |
研究実績の概要 |
自然豊かな溜池は地域住民の親水域や希少生物の生息場となっている。しかし,富栄養化した溜池では,浮葉植物の大量繁茂により水面が覆われて光阻害や貧酸素化が生じ,水中に生息する希少な沈水植物が駆逐され,水生植物相が貧弱化する可能性がある。浮葉植物の適切な管理により溜池の多様な水生植物相は保全できると期待されるが,水生植物相の貧弱化メカニズムは解明されておらず,管理手法も確立されていない。研究対象とした福島県白河市南湖(以下,南湖とする)においても水生植物相の貧弱化が課題となっている。 本研究では,現地観測と室内実験により,浮葉植物の大量繁茂に伴う水生植物相の貧弱化メカニズムを明らかにし,今後の水生植物の管理手法の開発,ひいては溜池における生物多様性の保全に寄与する。 平成27年度の研究成果は以下の通りである。1)水生植物の多い7月上旬では上層DO飽和度は,日中で最大160%以上,夜間で40%を下回ることがあった。また,夜間の下層では,DO飽和度が10%程度まで低下することがあった。日中のDO上昇は水生植物の光合成,夜間のDO低下は水生植物の呼吸に起因すると考えられる。2)風速が同程度の際に,浮葉植物の密度が大きい地点で湖上層の流速が小さかった。よって,浮葉植物により吹送流が減衰するものと考えられる。3)浮葉植物の密度が大きいと,水中光量子量が小さくなっていた。よって,水面付近に広がった浮葉植物の葉が水中に届く光を減衰させるものと考えられる。4)光合成と呼吸によるDO変動実験の24時間後のDO変化量は,水生植物の種類や光条件によりDOは大きく変化することが明らかとなった。5)枯死分解によるDO消費実験のDO変化量は,全ての水生植物において実験開始直後から減少した。よって,水生植物の枯死分解によりDOが減少することが分かった。また,種類によりDO消費量が異なるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに下記の現地調査と室内実験を実施した。 (1)現地調査: 現地調査では,①浮葉植物による光阻害,②浮葉植物による大気から水への酸素供給の阻害,③水生植物の光合成・呼吸による酸素生成・消費,④水生植物の枯死後の好気分解による酸素消費,を把握した。「浮葉植物群落,沈水植物群落,無植生域の3区域の浅・深層を対象とした1時間刻みの長期定点連続観測」と「多地点を対象とした月1回程度の鉛直分布観測」を実施し,溶存酸素,光量子,水温,流向流速,濁度,クロロフィルおよび調査地点直上の風向風速等を観測した。 (2)室内実験: 室内実験では,③水生植物の光合成・呼吸による酸素生成・消費,④水生植物の枯死後の好気分解による酸素消費,を把握した。光合成・呼吸による酸素生成・消費は,増殖期の生きた水生植物(浮葉植物,沈水植物)を明暗条件で培養し,溶存酸素濃度の変化から定量化した。枯死後の好気分解による酸素消費は,死滅期の枯死した水生植物を暗条件下で好気分解させ,溶存酸素濃度の変化により定量化した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い下記の項目を実施する。 (1)現地調査,室内実験: 平成27年度から継続した調査,室内実験を実施する。 (2)浮葉植物による光減衰と沈水植物生息域の関係把握: 現地調査の結果から,沈水植物が生息できる光環境を推定する。また,光量子の鉛直分観測により浮葉植物群落の被覆率と減衰係数の関係を把握する。そして,沈水植物が生息できる光環境と,それを満たす浮葉植物の被覆率を求める。この成果から,沈水植物の生息可能な光環境を明確にし,経験的に行われていた浮葉植物の刈り取りが光環境の改善に及ぼす工学的な意義を評価する。 (3)水生植物が溶存酸素の動態に及ぼす影響の把握: 現地調査と室内実験の結果を合わせて解析することで,浮葉植物と沈水植物が溶存酸素の動態に及ぼす影響の相違を明らかにする。また,「浮葉植物による大気から水への酸素供給阻害」,「水生植物の呼吸による酸素消費」,「水生植物の枯死後の好気分解による酸素消費」が溜池の貧酸素化に及ぼす影響の定量化を試みる。さらに,本研究の成果と他因子(底泥,植物プランクトン等)が酸素動態に及ぼす現象(酸素供給・消費)の文献値を用いて,南湖における溶存酸素の収支を試算し,貧酸素化の効果的な抑制方法について検討する。
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