自然豊かな溜池は地域住民の親水域や希少生物の生息場となっている。しかし,富栄養化した溜池では,浮葉植物の大量繁茂により水面が覆われて光阻害や貧酸素化が生じ,それらに伴って水中に生息する希少な沈水植物が駆逐され,水生植物相が貧弱化する可能性がある。浮葉植物の適切な管理により溜池の多様な水生植物相は保全できると期待されるが,水生植物相の貧弱化メカニズムは解明されておらず,管理手法も確立されていない。 本研究は,水生植物相の貧弱化が課題となっている福島県白河市南湖を対象とした現地観測と室内実験により,浮葉植物の大量繁茂に伴う水生植物相の貧弱化メカニズムの一端を明らかにした。研究成果を以下に示す。 (1)現地観測により,浮葉植物密度が高いほど光の減衰が大きくなることが確認された。よって,浮葉植物の大量繁茂で沈水植物の生育が阻害されると推測される。(2)現地観測により,浮葉植物の繁茂によって吹送流が減衰することが確認された。しかし,吹送流と溶存酸素(DO)との関連性は確認されなかった。(3)現地調査により,夏季の南湖底層では水生植物の呼吸や枯死分解で貧酸素化が生じることが確認された。(4)培養実験により,水生植物(ヒシ,オヒルムシロ,イバラモ,クロモ)が生息することで,明条件ではDOが増加し,暗条件では減少することが確認された。DO増加は水生植物の光合成,DO減少は呼吸によるものと考えられる。また,明条件におけるDO増加は浮葉植物よりも沈水植物,暗条件におけるDO減少は沈水植物よりも浮葉植物で卓越した。(5)枯死分解実験により,水生植物(ヒシ,オヒルムシロ,イバラモ,クロモ)が枯死分解することで,DOが減少することが確認された。一方,水中のCOD,総窒素,総リン濃度は水生植物の枯死分解に伴い増加した。また,水生植物の種類によりDO消費,COD,総窒素,総リンの溶出が異なった。
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