研究課題
平成28年度は、前年度からの野外調査を継続し、樹木群集構造データを拡充した。西表島、屋久島において、標高傾度(100m間隔)に沿って方形区(10m×10m)を設置し、樹木種ごとの個体数及び草本種の出現を記録した。これによって、緯度と標高をサロゲートとして、環境勾配に沿った群集集合プロセスの変化が検証可能となった。なお、亜熱帯林の樹木群集と比較するためのリファレンス群集として、宮崎県椎葉村の暖温帯林でも同様の調査を行った(合計で120箇所)。前年度に行った多点調査(屋久島、沖縄島、徳之島)の結果と、既存情報(植生調査・毎木調査データ)を合わせて種分布モデリングを行い、局所種プール(局所群集の種組成の制約になる)の空間分布を解析した。この成果は現在、投稿準備中である。前年度までの研究成果(時系列プロットデータを使った樹木群集の機能的・系統的構造解析)をEcological Research誌に投稿し、受理された。この論文では、群集構造のランダムからの逸脱を評価し、種集合における決定論的プロセスと確率論的プロセスの相対的重要性を評価した。その結果、琉球列島の樹木群集の全体的なトレンドとして、1)確率的な集合プロセス(例:分散制限など)が卓越している、2)遷移系列に沿った群集集合プロセスの変化は不明瞭であることを明らかにした。機能的構造解析アプローチを、沖縄島北部の森林モニタリングデータ(~20年)に適用し、予察的な結果を得た。単純な帰無群集を用いた解析では、時系列データの場合と同様、確率的プロセスの卓越が示された。今後、系統情報を含め、より詳細な解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度と同様、琉球大学・理学部の研究チームの協力を得ることができた。これにより、調査要員の確保、データ解析、論文執筆を計画通り円滑に行うことができた。
前年度までの時系列データを用いた解析(空間変動を平均化して扱う)では、亜熱帯樹木群集におけるランダムネスの卓越が示された。この結果を説明する仮説には、以下の2つが考えられる:1)確率的プロセスが種集合を完全に支配している;2)実際には様々な決定論的プロセスが働いているが、単一の決定論的プロセスの卓越を抑制する要因(例 微小環境の空間的異質性、競争の非推移性(intransivity)、デモグラフィックニッチの多様化)が存在し、見かけ上ランダムと区別がつかなくなっている。本年度は、環境傾度、環境異質性、動態特性に着目し、亜熱帯林樹木群集の集合プロセスをより詳細に検証する。具体的には、1)大面積プロットを使った、微小環境変化(地形をサロゲートとする)による群集集合プロセスの空間変動解析、2)モニタリングデータを用いた動態特性(デモグラフィックニッチ)に基づく種共存パターン解析、3)群集多点データ(植生・毎木データ)を用いた、環境傾度に沿った群集集合プロセスの変動分析を行う。これらの成果はそれぞれ国際誌への投稿論文としてまとめる。これらの成果を踏まえ、琉球列島の亜熱帯林における森林施業のインパクトを、群集集合メカニズムの視点から評価する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Ecological Research
巻: 31 ページ: 645-654
10.1007/s11284-016-1373-8