森林施業が生物多様性に与える負の影響の緩和は、資源管理・保全上の重要課題である。そのような施業を実現するためには、森林施業が生物群集の形成機構をどのように改変するかを十分に理解しておく必要がある。本研究では、琉球列島の亜熱帯性常緑広葉樹林において、森林伐採による樹木群集の群集集合プロセスの改変効果を検証した。当初の計画では、樹木の各生活史段階(成木、稚樹、種子)の群集データを作成する計画であったが、稚樹・種子の十分な情報を得ることが困難であったため、既存の毎木調査データを使ったサイズクラス別の分析を行った。伐採からの時系列に沿って設置されたプロットにおいて、樹木のサイズクラスごとの群集機能特性構造(葉、材、種子)を評価し、森林伐採による群集集合プロセス(分散制限、生物間相互作用、環境フィルター)の改変効果を推論した。比葉面積(SLA)、材密度(WD)、種子重(SM)、それぞれについて種間の機能特性距離を計算し、各プロットの各サイズクラス(直径5㎝以下、5㎝~10㎝、10~15㎝、15~20㎝、20㎝以上)における最小機能特性距離(MNTD)を計算した。SLAやWDのMNTDは、伐採後の林齢に関わらず、負の値をとる傾向があり、サイズクラス間での違いは小さかった。一方で、SMのMNTDはサイズや林齢によるばらつきが顕著で、特に遷移初期の上層木集団で種間の変異が大きかった。SMのMNTDのサイズクラス間の差は、林齢に伴って小さくなった。これらは、過去の森林伐採が、種子散布プロセスに決定論的な改変をもたらしたことを示している。本研究の結果から、林分の孤立度、林分間のソース・シンク構造など、景観の空間構造を考慮した森林管理計画の必要性が示唆された。
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