海洋性珪藻において、脂肪酸の前駆体であるピルビン酸の供給経路を明らかにすることを目指して研究を行った。代謝酵素のGFPタギングによる細胞内局在解析の結果、エノラーゼの葉緑体型アイソフォームが存在することを明らかにした。RT-PCRおよびイムノブロットによる解析の結果、この葉緑体型アイソフォームは、珪藻細胞内で転写・翻訳され、タンパク質として発現していることを確認した。葉緑体型エノラーゼのリコンビナントタンパク質を大腸菌で発現させ、精製後に酵素学的特性の解析を行った。その結果、既知の細胞質局在型エノラーゼと比較し、酵素学的特性に大きな違いは見られなかった。珪藻における葉緑体型エノラーゼとオイル合成の関連を調べるため、RNAiによるノックダウンを試みたが、現在のところ有意にタンパク質蓄積量が低下した株は得られていない。そのため、現在ゲノム編集によるノックアウトを試みている。一方、葉緑体型エノラーゼの過剰発現体は、すでにスクリーニングを終え、野生型より発現量の多い株を取得した。野生型と過剰発現体で生育速度を比較したが、大きな差は見られなかった。現在、過剰発現体のメタボローム解析とオイルの蓄積量解析を行っている。 これまでの緑色植物を主体とした研究では、葉緑体にはエノラーゼが存在せず、したがってカルビン回路中間体から直接ピルビン酸を合成することは出来ないと考えられてきた。しかし、本研究により、海洋性珪藻が葉緑体型エノラーゼを持つことが証明され、珪藻が独自の葉緑体内代謝系を発達させていることが明らかになった。
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