研究課題/領域番号 |
15K16158
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
沼田 大輔 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (70451664)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | デポジット制度 / 店頭回収 / 使用済み製品 / 廃棄物 / インセンティブ / 環境経済 / バルト3国 / スウェーデン |
研究実績の概要 |
2014年に研究代表者が訪問調査を実施したリトアニア・ラトビア・エストニアを2017年夏に再訪し、関係者にヒアリングを行い、関連する現場を複数視察した。そして、デポジット制度の導入を法律で義務付ける強制デポジットを2016年に開始したリトアニアについて、2014年の訪問調査以後の動き、強制デポジットを実施しているリトアニアとエストニアに挟まれたラトビアで近年見られる強制デポジット導入の動き、リトアニア・ラトビアの強制デポジットの検討に少なからず影響を与えているエストニアの現状とこれまでの経緯などをフォローした。 また、2014年にヨーロッパのデポジット制度についての訪問調査の拠点としたスウェーデンも再訪し、1980年代前後におけるスウェーデンの強制デポジットの導入前後のことを知る人物にヒアリング調査を行った。一方、日本における使用済みペットボトル等の店頭回収関連のヒアリングを全5か所で実施し、日本のペットボトル等の店頭回収について詳細な実態把握を行った。そして、日本で展開されている店頭回収の特性を、仕組みと経緯の観点で、スウェーデンのデポジット制度との比較から明らかにし、今後の日本の店頭回収について議論の視座を提起する論文を作成した(沼田大輔 (2018) 「ペットボトルの店頭回収の日瑞比較」 『環境科学会誌』, シンポジウム論文, 近刊)。 以上のほかに、福島大学で3年10カ月にわたって行ってきた弁当容器へのデポジット制度の評価についての学会報告、「デポジット制度の経済学的研究」という課題で受賞させて頂いた2017年度環境科学会奨励賞の受賞記念講演を行った。また、2017年度に開催された京都大学の植田和弘名誉教授の退職記念シンポジウムでの研究代表者の講演内容をもとに、デポジット制度に関する研究についての展望論文を『環境経済・政策研究』に掲載させて頂いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、諸外国のデポジット制度の仕組みについて、世界レベルで共有できるようにし、それを踏まえた経済学的な分析の方向性を示すことを目的の一つとしている。これについては、「研究実績の概要」の欄に示した調査を行うことで、研究代表者は諸外国のデポジット制度についての理解を深めてきている。しかしながら、これに関連する英語論文等での成果が、2016年6月に出版したNumata, Daisuke "Policy mix in deposit-refund systems - From schemes in Finland and Norway" Waste Management 52, pp.1-2 にとどまっている。本科研費で実施している様々な調査も踏まえつつ、この英語論文の公刊への道筋をつけることが2018年度の課題である。また、引き続き、様々な諸外国のデポジット制度の仕組みのフォローに努め、そこで得られたポイントを論文などの形で公刊していくことも2018年度の課題である。 一方、あと一つの目的である、リユースの促進策、リユースを可能とする条件の導出については、研究代表者が主な研究対象としている飲料容器については、瓶の普及・回収が該当するが、飲料容器全体に占める瓶容器の割合が年々小さくなり、また、リユースは環境負荷が低いとは必ずしもいえない傾向になってきている。このため、本科研費では、今後は上述のデポジット制度に焦点を絞っていきたいと考えている。デポジット制度については、近年新たな問題として浮上しているマイクロプラスチック汚染の問題の解決策として世界的に期待されている面があり、また、近年普及が進んできているペットボトル等の店頭回収への示唆(例えば、「研究実績の概要」に記した環境科学会誌への掲載予定論文を参照されたい)もあることから、研究の社会的意義は大きいと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年に、リトアニア・ラトビア・エストニアにおいて実施した調査の結果と考察等について、2018年6月に、中国・北京で開催される2018 International Conference on Resource Sustainabilityで、研究代表者が報告する予定である。この準備の中で、この報告の内容の論文化の可能性を見通す。また、このConferenceの直前に、2017年2月に訪問した際には時間不足のため十分な情報収集ができなかった、北京にあるIncom社ほかを再訪し、北京において構築が進んでいるデポジット制度を活用した使用済み製品の回収の状況について詳細に把握する。 一方、2018年9月あたりを目途に、最近新たに強制デポジットを導入したとみられるオーストラリアの3つの州を訪問し、強制デポジットの導入直後であれば得られやすいと考えられる、強制デポジットの伝播、実施に至る政策形成過程についての情報収集を行いたい。また、研究代表者がこれまでは十分に把握できていない、島しょ国におけるデポジット制度についても、2018年度中に、少なくとも1か所は訪問することで特徴等を把握したい。なお、2016年度の実施状況報告書で記した台湾への調査については、複数の日本の研究者との話で、典型的なデポジット制度の形態である消費者と生産者の間でのデポジット制度は実施されていないことが判明したため、実施しないこととした。 これらと並行しつつ、「現在までの進捗状況」の欄に示した、諸外国のデポジット制度の仕組みについての世界レベルでの共有、それを踏まえた経済学的な分析の方向性を示す英語論文の公刊に至る道筋をつける。また、研究代表者がこれまで複数年にわたって行ってきた使用済み弁当容器の回収のあり方についての総括論文の作成を、これまでの学会報告などをもとに見通すことも2018年度の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度から2017年度にかけては、研究代表者に子の出生があり、海外調査等の研究時間を十分に確保することが困難であった。このため、2018年度も本科研費による研究を行い、「今後の研究の推進方策等」の欄に示した様々な海外調査・学会報告等で、次年度使用額を効果的に使用していく計画である。
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