研究課題/領域番号 |
15K16162
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
蛯原 一平 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (40589371)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 資源管理型狩猟 / 民俗知 / 狩猟担い手 / 猟場形成 |
研究実績の概要 |
本研究では、野生鳥獣との共的関係のなかで歴史的に培われてきた伝統的狩猟をローカルに根ざした「資源管理型狩猟」と位置づけ、それを担う狩猟者たちの民俗知(在来知)がいかに形成され、継承されうるかを狩猟活動への同行・記録に基づく事例調査から検討する。加えて台湾パイワン族でなされている狩猟担い手育成に関しても情報を収集し、かつ研究協力者との相互議論を通し、民俗知の形成(継承)に関わる課題についても考察する。 本年度は、4~5月に山形県小国町で行われた伝統的春グマ猟(ツキノワグマの春季捕獲)に同行・調査し、資料収集を継続実施するとともに、これまでの調査結果の整理分析を進め、とりわけ狩猟において不可欠である猟場選択に関する知識構築に関して考察を行った。そして、山の地形・地理に関する知識が個人のなかでどのように蓄積され、集団で共有されるかについて論文執筆を進めた。さらに、その基本的知識となる猟場の地名についても随時聞きとりを行い、情報の収集・蓄積を図ると同時に、それらの整理及び発信の方法についても検討した。 また、これら研究の進展に伴い、より独創的な成果を導くためには民俗知形成のプロセスを当初想定していたように自然環境との関連を中心として論じるのではなく、狩猟者らの価値観まで掘り下げ社会文化的視点からも捉えることの重要性が示唆された。そこで、マタギ(東日本の伝統的狩猟者)に関する民俗学的調査報告や地域民俗誌等の文献資料収集及び狩猟者への聞きとりを実施した。そして、戦後における当地域での狩猟の変化を実証的に捕捉することで現在継承されている狩猟の知識・技術基盤の一端を把握することに努めた。あわせて、本年度に刊行予定であった一般向けのブックレットにおいてもこの内容を充実させることに変更し、新たな構成案での編集作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
狩猟活動への同行・記録といった現地調査及び文献資料の収集に関しては本年度も継続実施することができ、当初の見込み以上の蓄積を得た。また、それら資料の整理や文献レヴューに関しても順調に進めることができた。しかし、共同猟である山形県小国町での春グマ猟と、個人猟が主体となる沖縄県西表島でのイノシシ罠猟との事例比較や統合は不十分であり、本研究課題で目指す民俗知形成のモデル構築を具体的に検討するまでには至っていない。とりわけ研究計画においては民俗知形成(継承)のモデル構築及びその課題の抽出に関し、沖縄で本年度開催予定であったイノシシサミットにおいて研究協力者とWS(ワークショップ)を行うことを計画していた。しかし、主催者側の都合で延期となり、そのための議論を十分に重ねることができなかった。また、既述の通り、本年度刊行予定であったブックレットに関しても内容を再吟味した結果、編集のための期間を若干延ばさざるを得なくなった。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の研究期間は本年度までの3年間であった。しかし、その核心となる「資源管理型狩猟」については、持続性と環境変化に対応した可塑性という側面を考慮する必要があり、それらの検証を目的とした現地調査の継続実施が不可欠である。また、既述の通り、より独創的な成果を導くためには、継承されてきた伝統的な狩猟の知識・技術基盤を歴史的に明らかにしていき、民俗知形成のプロセスを社会文化的視点からも捉えることが肝要であり、そのための狩猟者への聞きとり及び民俗誌的資料の収集を追加する必要がある。そこで研究期間を1年延長し、前半期はそれら補足調査を行う。そのなかで、とくに後者に関しては、現在用いられていない集落近傍での罠猟といった伝統的狩猟技術の復元及び聞きとりを実施する予定である。そして、それらの成果を踏まえ、一般向けブックレットの編集・刊行、あるいは学術専門誌への論文投稿、研究会での報告などを通し本研究課題の情報発信に努める。後半期には研究協力者とのWSを実施し、台湾での事例をモデル構築へとフィードバックさせるとともに、山形県でも研究会を行うことで実践的なモデル構築に向けた議論を加速させる。そして、これらの議論を整理し、年内には民俗知形成(継承)モデル及びその課題について検討を行い、最終的な成果を導きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた台湾パイワン族の研究協力者を交えたWSが延期となったため、その関係者の招聘旅費等を繰り越すこととした。また、本年度刊行予定であったブックレットに関しても内容を再吟味した結果、編集期間を延ばさざるを得なくなった。 次年度は、補足調査の実施とWS、研究会等を通した研究成果のとりまとめ、並びに情報発信を行う。そこで、研究代表者の現地調査、文献収集・調査及び学会発表、WSへの研究協力者たち関係者の招聘、並びに研究会の講師たちの交通費などに係る旅費として使用する。また、伝統的狩猟技術の復元も検討しており、そのための謝金(専門的知識の提供)にも用いる。さらに、成果の情報発信の一部として一般向けブックレットの印刷代にも充当させる。
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