本年度は、現地調査の継続実施とワークショップ(WS)の開催並びに一般向けブックレットの刊行等による情報発信・成果公開を行った。 現地調査では、初年度より実施してきた山形県小国町での伝統的春グマ猟(ツキノワグマの春季捕獲)への参与観察を4~5月に行い、これまで得られたデータの精緻化を進めた。また、10月には同町小玉川地区内で、古老達の指導を仰ぎ1960年代頃まで用いられていたクマ捕獲用重力罠(オオモノビラ)を復元作製してもらい、その技術に関する映像記録資料を作成した。また同時に、若い世代の人達にも作業へ加わってもらうことで罠の作製と設置に要される自然・猟場(山)についての知識の世代間伝承を促した。これらの他、9月に奄美大島で狩猟状況に関する情報収集を行い、西表島の事例を比較検討するための参考資料を得た。 これら調査に加え最終年度である本年度は、研究のとりまとめに向け、研究協力者であるサキヌ氏を招聘し小国町内で1月にWSを開催した。本WSでは、「猟人学校」をはじめ、狩猟という「文化」を伝えていくために自身が行ってきた取り組みや、その趣意についてサキヌ氏による講演が行われたあと、地元(小国町)狩猟者達を交え、その課題と意義について意見交換がなされた。 地域で歴史的に培われてきた狩猟は、単なる野生鳥獣の捕獲にとどまらない多義的な意味合いを社会・個人内において有している。それゆえ、その担い手育成のあり方は本WSのように文化継承問題の一つとして捉え、議論されなければならない。本研究では、現在、小国町で実践される狩猟の歴史文化的側面に焦点を当てた一般向けブックレット『小国マタギの今・昔』を3月に刊行し地元狩猟者を含め広く配布することで、議論の基盤となる情報の共有を図り、ローカルに根ざす「資源管理型狩猟」の構築に向けた下地づくりに努めた。
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